根管治療を受けた歯は、次回のアポイントまでの間に、一時的に白い材料で封鎖をします。
しかし、仮封材は強度としてそこまで強い材料ではなく、帰宅後にすり減ったり、場合によってはとれてしまうこともあります。
「仮蓋がすりへっているが大丈夫なのか?」「取れたような気がするが、治療に影響しないか心配」
このように、治療後にご心配になる患者様からお問い合わせをいただくこともあります。
ここでは、根管治療中の仮蓋について、日本歯内療法学会専門医が解説します。
目次
白い仮蓋は細菌の侵入を防ぐため

根管治療は、歯の内部に穴をあけて治療を行います。
治療を終えた後、穴があいている部分はそのままにすると、食べ物が入り込んだり細菌が侵入する入り口となってしまうため、封鎖する必要があります。
歯科医院では一般的に「仮蓋(かりぶた)をしています」と説明を受けるこの封鎖する材料は、仮封材(かふうざい)といい、歯の中に食べ物や細菌が入るのを防ぐ目的があります。
つまり、歯の内部への細菌(唾液や食べ物など)の侵入を防ぐためのバリアの役割といえます。
仮封材にはいくつかの種類がありますが、一般的には白い硬めの粘土状の材料が使用されています。
仮蓋は水分と反応して徐々に硬化する
最も一般的に使用される仮封材として、水硬性仮封材というものがあります。これは、はじめはやや柔らかい粘土状の材料ですが、使用後唾液の水分によって、徐々に硬化する性質があります。
硬化するための時間は製品によって異なりますが、おおよそ1時間程度で硬化します。
つまり、仮封材が硬化する前に食事をして噛んでしまうと、柔らかい状態の材料が大きくすり減ったり、脱離してしまったりします。
そのため、治療直後少なくとも1時間、もし可能であればできれば3〜4時間は、食事をあけていただくほうが安心といえるでしょう。
硬化した後も硬いものですり減りやすい
仮蓋の材料は、固まったあとも食べ物が当たることで徐々にすり減ります。
また、特にナッツやおかきなどの硬い食べ物は、仮封材がすり減るだけでなく、根管治療中の歯の痛みにもつながります。そのため、治療期間中は、できる限り硬い食べ物は避けた方がよいといえます。

ここで重要なことは、”仮蓋がすり減っても一定の厚みが残っていれば問題ない”ということです。
また、仮封材料は、全周を歯質やレジンの壁で覆われているかどうかもでも、取れやすさが異なります。

基本的に、根管治療をしっかりと行うためには、隔壁というレジン性の樹脂で壁を作ります。そのため、周りを壁に覆われているため、仮封材料は比較的脱離しにくくなります。
仮蓋は多少すり減っても問題ありません
「仮蓋が何ミリの厚みがあれば細菌の侵入を防げるか?」という実験では、およそ3mmの厚みが残っていれば、細菌の侵入を防ぐことができると報告されています。
つまり、多少すり減っても、歯の内部も含めて3mmの厚みが残った部分であれば、十分にバリア機能を果たせるといえます。
実際、口腔内の感覚は非常に鋭敏なため、「詰めてもらった白い仮蓋がかなり取れている」とご心配になり、来院される患者様もおられます。
しかし、実際には、表面が一層すり減っているだけで、仮蓋の9割はしっかりと維持されていることがほとんどです。
例として、小豆の粒が丸々歯の中に隠れるぐらいであれば、歯の中の仮蓋が全て取れてしまっている可能性があります。しかし、表層が一層凹んでいるような状態は、治療において影響は全くありません。
安心して次回のアポイントまで、様子を見ていただければと思います。
仮蓋+水酸化カルシウムの貼薬で細菌に対して二重のバリア
仮蓋だけでも細菌の侵入を防ぐことができますが、さらに、根管治療の期間中、根管内には水酸化カルシウムという抗菌作用のある薬を同時に入れています。これによって、万一細菌が隙間から入り込んでも、薬の抗菌作用よって細菌の侵入をブロックできます。
・仮蓋の材料が多少すり減っても細菌の侵入は十分防ぐことができる
・根管内の薬の効果で、抗菌性を発揮し万一細菌が侵入してもブロックできる
以上の二点から、封鎖材料を超えて細菌が根の中に入り込む可能性は、極めて低いといえるでしょう。
仮蓋が完全に取れてしまった場合は?
仮蓋の材料が完全に取れると、根の中に食べ物が押し込まれ、新たな感染の原因となります。
完全に取れた状態とは、歯にもよりますが、小豆サイズの食べ物がスポッと入り込むような状態です。
表面が少し削れてすり減っている状態は問題ありませんが、もしも完全に取れてしまった場合は、歯科医院への受診が推奨されます。
特に、根管治療を中断してしまい、仮蓋がとれて数か月(半年〜1年)放置すると、逃げ場のない汚れから根の中全体にむし歯が広がってしまいます(万一仮蓋がはずれてしまっても、数日〜数週間で虫歯が急速に進行することはありません)。
仮蓋が完全に取れてしまった場合は、早めに歯科医院への受診をおすすめします。
仮蓋がすり減ってしまったのではとご心配の患者様へ
根管治療中の仮蓋は、少しすり減った程度であれば大きな問題になることはほとんどありません。
明らかに完全に取れてしまった場合を除き、多くはそのまま様子を見ていただいて大丈夫です。
すり減っていても一定の厚みが残っていれば、細菌の侵入を防ぐ役割は十分に果たしています。
実際、髙井歯科クリニックでは多くの根管治療を行っていますが、「仮蓋が取れた」とご心配になり来院される患者様で、実際に取れている方はほとんどおられません。
なぜなら、根管治療開始時に、全周隔壁を作製し、仮蓋がとれないように最大限注意して治療を行っているからです。
過度に心配せず、次回の治療まで歯を清潔に保ちながら経過を見守っていただければ安心です。
根管治療中の仮蓋に関するFAQ
Q, 仮蓋がどんどんすり減ってきているのですが、大丈夫でしょうか?
はい。仮蓋がすり減っていても、ほとんどの場合、歯の中でしっかりと厚みが維持されています。仮蓋は細菌の侵入を防ぐためのものですが、多少すり減っただけでは、細菌の侵入を防ぐ効果に影響はありません。
Q, 仮蓋が完全に取れたか、すり減っているかどうかわからなくて不安ですが、どうすればよいですか?
完全に取れてしまった場合、大きく歯の内部に穴が空いているはずです。目安としては、小豆がすっぽりと隠れるぐらいの大きさです。歯の感覚は非常に鋭敏なため、少しのすり減りでも大きく感じますが、明らかに大きな穴でなければ、表面のすり減りだけですので、ご心配しなくて大丈夫かと思います。
Q, 仮蓋がすり減らないように、気を付けるべきことはありますか?
はい。まず、根管治療直後は仮蓋は柔らかい粘土状ですが、水分と反応して徐々に硬化します。そのため、少なくとも治療後1時間は、食事を避けていただければと思います。また、硬化後は硬い食べ物で若干表面がすり減ります。根管治療後の痛みを避けるためにも、治療期間中はナッツや煎餅などの硬いものを噛むことは避けていただいた方がよいといえます。
また、治療中の歯を爪で引っ掻いたり、爪楊枝で触ったりすることも、仮蓋が削れるだけでなく、歯の感覚閾値が低下して痛みが長期化する原因となります。意図的に歯を触ることは避けるようにお願いいたします。
Q, 仮蓋は、歯ブラシでは削れたりしないのでしょうか?
はい。通常の歯ブラシでのブラッシングで、硬化した仮蓋が大きく削れてしまうことはありません。根管治療の歯は、プラークが停滞しやすくなります。過度なブラッシング圧にならないようにだけ気をつけていただき、通常通りのケアを行っていただいてかまいません。
Q, 本当に完全に取れてしまった場合、どうすればよいですか?
もしも本当に仮蓋がすべて取れてしまった場合には、歯科医院を受診されることをおすすめします。
以下の関連記事でも、根管治療の仮蓋について解説しています。
関連記事:根の治療中に、封鎖している白い材料が取れてしまったら?根管治療中の仮の封鎖材料について専門医が解説>>https://takai-dc.jp/endo/column/root-canal-treatment-seal-lost/
監修者情報

院長 髙井 駿佑
経歴
- 2007年 県立宝塚北高等学校 卒業
- 2013年 国立鹿児島大学歯学部 卒業
- 2014年 大阪大学歯学部附属病院 総合診療部 研修修了
- 2016年 医療法人晴和会うしくぼ歯科 勤務
- 2019年 医療法人晴和会うしくぼ歯科 副院長 就任
- 2023年 髙井歯科クリニック 開院
資格
- 日本歯内療法学会 専門医
- 米国歯内療法学会 会員
- 日本外傷歯学会 認定医