「この前治療した根の先の膿がまた再発した」「根管治療の再治療は治らないから抜歯しかないと言われた」
このようなお悩みをもつ患者様は多くいらっしゃいます。
根管治療の再治療(再根管治療・感染根管治療)は、一般的に成功率が非常に低いと言われています。
一方で、初めて根の中の治療を受ける歯(初回治療・抜髄)の成功率は高いことが報告されています。
その違いは何にあるのでしょうか?なぜ、根管治療はこんなにも再発や再治療が多いのでしょうか?
ここでは、根管治療の成功率について解説します。

目次
初めて受ける根の治療の成功率は90%以上
海外の文献では、初めて根の治療を受けた歯の根管治療の成功率は、90%以上という高い数値が報告されています。初めて根の中を触る治療を、Initial Treatmentといい、日本では抜髄(ばつずい)といわれます。
Initial Treatmentでは、根の中の状態が手つかずのまま(必要以上に破壊されていない)ので、適切な器具操作を行えば、根の中の細菌を綺麗に取り除くことができます。
過去の治療のやり直しの成功率は70-80%
一方で、過去に一度行った治療のやり直し(再治療)の成功率は、70-80%とInitial Treatmentと比べて下がります。
根管治療のやり直しの多くは、細菌感染が取りきれていないことが原因で起こります。そのため、再発した時の第一選択として、再度根の中の感染源を取り除くための再根管治療が挙げられます。
再根管治療は、初めて根の中を処置する治療(初回治療)に比べて、成功率は低くなる傾向にあります。
なぜなら、すでに根の中にさまざまな器具や材料を使用しており、歯そのものにダメージが蓄積していたり、感染がより進んだ状態になっていることが多いからです。
また、1度目の治療で詰めた材料(ガッタパーチャ)を取り除く必要があり、治療自体がより複雑となります。
しかし、前回受けた治療がラバーダムやマイクロスコープを使用していない場合や、不十分な根管処置を受けている場合、”改善する余地が十分に残っている”といえます。そのため、再根管治療で治る可能性は高いといえます。
海外 | 日本 | |
はじめて根の中を 触る治療 | Initial Treatment (初回治療) | 抜髄(ばつずい) |
過去に治療を受けた 歯の再治療 | Re-Treatment (再根管治療) | 感染根管治療 |
⚠️海外では、初めて根の中を触る治療をInitial Treatment(初回治療)、過去の治療のやり直しをRe-Treatment(再根管治療)と定義されています。
一方で、日本では初めて根の中を触る治療を抜髄(ばつずい)、治療のやり直しを感染根管治療と定義しています。日本では再治療感染根管治療と言われることもありますが、感染根管治療も再根管治療もほぼ同じ意味で使用されています。
根の中が大きく破壊されていると成功率は40%程度
また、歯の根の元々の形態が破壊されている、歯の内部に穴があいている、過剰に歯が削られてしまっているなどの問題が起こっている場合、成功率は40%程度に下がります。
特に、以下のような問題が起こっていると、治療の成功率は大きく下がってしまうといえます。
・パーフォレーション:歯の中に大きな穴があいてしまっている
・トランスポーテーション:根の先端部分が破壊されてしまっている
・根管形態の破壊:元の根の形から大きく逸脱して削られてしまっている
・歯根吸収:感染が原因で、根の外あるいは内側の吸収が起こっている
日本の根管治療の成功率は30〜50%以下
ここまでご紹介した成功率は、すべて海外の文献から紐解いた成功率です。海外(北米やヨーロッパ)の根管治療は、基本的にすべてラバーダム防湿を行い、根管治療の基本をしっかり押さえた治療の結果です。
一方、日本の一般的な保険診療で行われる根管治療の成功率を調べた報告では、その成功率は30-50%と非常に低いことが報告されています。つまり、せっかく治療を受けたのにもかかわらず、10本中7本は数年後に再発し再治療がなされていることになります。

保険診療や自由診療の枠組みの違いもありますが、ひとつひとつの処置が十分になされていないことが、日本において成功率が低い原因と考えらえます。
日本の根管治療の成功率が低い理由
日本で一般的に行われている根管治療の成功率が低い理由として、以下のものが考えられます。
- ラバーダム防湿のように、根管治療に不可欠な治療環境が整っていない
- 難しい歯であっても、専門医へ紹介するという習慣がない
- 根の治療は特に細かな処置であるため、苦手意識がある歯科医師が多い
- ラバーダム防湿のように、根管治療に不可欠な治療環境が整っていない
最も大きな理由は、根管治療を行う時に守るべきルール(ラバーダムを使う、虫歯をしっかり取り切るなど)が徹底されていないことにあります。これらが守られていないと、根の中の細菌を減らすことができず、また新たな細菌の侵入を容易に許してしまうことになります。
これは、日本の保険制度上、時間や材料をひとつの根の治療に十分かけることが難しいことも関係しています。一方で海外では、根管治療を受けるための費用は非常に高額です。その分、治療のための環境設備や材料、1回の治療時間を十分かけることができます。
日本の保険診療では良い治療が受けられないというわけではありませんが、さまざまな制約の結果が、根管治療の成功率の低さとして表れています。
難しい歯であっても、専門医へ紹介するという習慣がない
日本の多くの歯科医院は、”一般歯科医院”といい、多くの治療を幅広く行っています。
もちろん、難しい親知らずの抜歯や、矯正治療など、専門分野の先生に紹介することもあります。
しかし、根管治療は日常的に行う治療であるため、難しい歯を根管治療の専門医(歯内療法の専門医)に紹介するという習慣があまりありません。
海外では、医療訴訟や高額な治療費の関係から、難しい歯(奥歯の治療、特に再治療など)に関しては専門医へ紹介する文化が根付いています。
基本的に全ての治療を一人で行う日本の根管治療に対して、海外では専門家と協力しながら治療を進めるので、結果としてトータルでの高い成功率に繋がっています。
根の治療は特に細かな処置であるため、苦手意識がある歯科医師が多い
一人の歯科医師が全ての分野の治療に深く精通することは、非常に難しいといえます。
どの歯科医師(歯科医院)でも、得意としている治療と、あまり得意としない治療が必ずあります。
中でも根管治療は、”見えない””器具が入らない”などの理由から、比較的苦手としている歯科医師が多いのが現状です。
以下の記事では、根管治療の再発について詳しく解説しています。
関連記事:根管治療の再発を防ぐために|専門医が語る原因・治療法・予防策と、再根管治療で歯を守るための選択肢とは>>
根管治療の成功率まとめ
治療の成功率 | コメント | |
Initial Treatment(抜髄) | 90% | 初回の治療で精密な治療を受ければ治る可能性大 |
Re-Treatment(再治療) | 70〜80% | 再治療でも治癒する可能性は十分にある |
根管内のダメージが多い場合 | 40% | 歯に穴があいているなどの問題があると成功率低下 |
一般的な日本の成功率 | 30〜50% | ラバーダムなしでの不十分な治療 |
歯を長持ちさせるためには、初回の治療時にしっかりとした根管治療を受けることが重要
上記で、根管治療のやり直し(再治療・再根管治療)は成功率が下がるとお話いたしました。一方で、初回の治療(Initial Treatment・抜髄)の成功率は90%です。つまり、「初めて根の中を触る治療の時に精密な治療を受ければ、その多くは治癒してくれる」ともいえます。
しかし現実には、多くの歯科医院で、「虫歯が大きいから根管治療が必要です」と一言だけの説明で、ラバーダムやマイクロスコープも使わずに、治療を開始してしまっているのが現状です。
患者様にとっては、その場で、初めて説明を受け、治療について考える時間的な余地がほとんどないのです。「虫歯の治療に行ったら、そのまま根管治療が始まってしまった」という患者様も少なくありません。
また、不十分な治療が長引けば長引くほど、治る確率は低下してしまうといえます。
治療の回数についても、精密な治療を行えば最短で1回、多くても2回でほとんどの症例に対応が可能です。5回10回と治療に回数をかけることは、あまり意味がないだけでなく、新たな感染が広がるリスクがあります。
関連記事:根管治療の回数は、1回から2回程度で終わるのが理想的>>
根管治療の成功率に関する実際の患者様とのやりとり
髙井歯科クリニックには、根管治療についてインターネットで調べた上で、ご相談に来られる患者様が多数いらっしゃいます。
以下のリンク先の記事では、治療の成功率についてご質問があり来院された患者様との、実際の初診時のやりとりについてご紹介しています。
根管治療の専門医による治療を希望して来院した60代女性患者様|根管治療の成功率と重要なポイント>>
また、上記患者様の実際の治療の内容や治療経過については、こちらをご覧ください。
根管治療について調べた結果、難しい治療であることがわかったため専門医の先生に治療をお願いしたい【60代女性】
監修者情報

院長 髙井 駿佑
経歴
- 2007年 県立宝塚北高等学校 卒業
- 2013年 国立鹿児島大学歯学部 卒業
- 2014年 大阪大学歯学部附属病院 総合診療部 研修修了
- 2016年 医療法人晴和会うしくぼ歯科 勤務
- 2019年 医療法人晴和会うしくぼ歯科 副院長 就任
- 2023年 髙井歯科クリニック 開院
資格
- 日本歯内療法学会 専門医
- 米国歯内療法学会 会員
- 日本外傷歯学会 認定医