ご来院までの背景
1ヶ月前に近くのかかりつけ歯科医院にて、左上奥歯の根管治療を開始した患者様です。二度の根管治療を行いましたがその後も強い痛みが続いており、専門医による治療を希望し当院を受診されました。ほぼ毎日強い痛み止めを服用しているとのことでした。治療を受けたにもかかわらず痛みが続いている理由や、その対処法について解説しています。


実際のやりとり
はじめまして。髙井です、よろしくお願いいたします。今回、左上の奥歯の治療中で、痛みが続いていると伺っています。まずはお話から聞かせていただけますか?
1ヶ月ほど前に、ズキズキとした痛みがあり、近くのいつも行っている歯医者に行きました。神経を取る処置が必要と言われ、根管治療を開始しました。初回の治療を受けたのが1ヶ月前で、その1週間後に2回目の治療を受けました。治療後もずっとズキズキした痛みがあり、歯に触れるだけでもかなり痛みがあります。(かかりつけの)先生には、「根の治療は回数と期間がかかる」と言われていましたが、少しおかしいのでは?と思い、ネットで色々調べました。その結果、根の治療を専門にしている医院があることを知り、今回受診いたしました。
ありがとうございます。痛みが続いているとのことですが、治療開始前と今を比べていかがでしょうか?
はじめはズキズキした痛みがありましたが、今は強い鈍痛や、歯に少しものが当たるだけでもかなり痛いです。痛みの感じは違いますが、強さはあまり変わらないかむしろ強くなっているように感じます。
そうだったのですね。帰宅後、薬のような嫌な味やにおいはしますか?
刺激臭というか、薬の薬品のようなにおいと味がします。
わかりました。今は仮の材料で封鎖されているので、一度はずして歯の状態を確認させてください。
(仮封材料をはずし、マイクロスコープで精査)

歯の状態を見させていただきました。現状から、痛みが続いているのは3つの理由があると考えられます。1つめは、虫歯がまだ残っている状態が原因と思われます。痛みを取り除くには、根の中の細菌をしっかりと減らす必要があります。しかし、虫歯がある状態では根の中に持続的な感染が続くため、痛みが続く原因となります。
この写真を見てびっくりしました。てっきり虫歯は全部取り切っているいるものと思っていました…
もちろん、治療の環境やクリニックの治療方法、治療にかける時間など様々な事情があるので、一概に良い悪いとは言えません。ただ、痛みを取るためには虫歯はない方がよいといえます。2つめの理由として、根の中に神経を殺す強い薬を使っていることが挙げられます。ペリオドンという薬ですが、生きている神経を壊死さえ、痛みを取り除くために使われます。しかし、現代では毒性が強いことと、使うと逆に歯が過敏になり痛みが増すため、世界的には使用は推奨されていません。ただ、日本では保険診療との兼ね合いなどから、いまだに「昔ながらの方法で」そのまま使われているのが現状です。
確かに、「神経を殺す薬を入れておきます」と言っていました。帰ってから口の中から薬のにおいがするのもこれだったのですね。
当院で精密な根管治療を行う場合、このような薬はすべて洗い流します。ただ、過敏になった歯は元に戻るまで長い期間がかかり、場合によっては不快感がいつまで経っても消えないということもあります。3つめは、ラバーダムを使っているかどうかということですが、(資料を見てもらいながら)このような器具は使用していましたか?
いえ、使用していなかったです。ネットで調べると、根の治療ではこれを使わないといけないと見たのも、転院しようと思ったきっかけです。
ラバーダムがない状態では、治療中も根の中に細菌が入り込んでしまいます。1つめの、虫歯が残っているとよくないのと同じ理由です。「ラバーダムを使ったら絶対治る」「ラバーダムを使っていないから治らない」というわけではありませんが、痛みを取り除き、治療をうまく成功させるためには使用すべきもの、と思っていただければと思います。
よくわかりました。こちらで治療をお願いしようと思いますが、痛みは取れますでしょうか。
ベストな環境で治療を行なった場合でも、およそ半数弱の患者様が不快な症状、あるいは鈍痛を感じることがあると言われています。ただ、その多くは痛み止めで十分コントロールできるレベルで、痛みも3日ほどでほとんどは消失します。ただ、⚫️⚫️様の場合、ペリオドンという強い薬を使用しており、これの影響で通常よりも痛みが長引くことも考えられます。歯が過敏な状態は、治療完了から6ヶ月〜1年程度で徐々に落ち着いてくるとも言われています。今の急性症状のような強い痛みは比較的短期間で落ち着くと思いますが、鈍い慢性的な痛みは、軽減するのにおそらく時間がかかると考えていただいた方がよいかと思います。
わかりました。しっかりと治療を受けた後は、あまり気にしないよう気長に待とうと思います。よろしくお願いいたします。
監修者情報

院長 髙井 駿佑
経歴
- 2007年 県立宝塚北高等学校 卒業
- 2013年 国立鹿児島大学歯学部 卒業
- 2014年 大阪大学歯学部附属病院 総合診療部 研修修了
- 2016年 医療法人晴和会うしくぼ歯科 勤務
- 2019年 医療法人晴和会うしくぼ歯科 副院長 就任
- 2023年 髙井歯科クリニック 開院
資格
- 日本歯内療法学会 専門医
- 米国歯内療法学会 会員
- 日本外傷歯学会 認定医