歯科医院で定期検診を受診したとき、あるいは歯がかけたり治療が必要になった時に、「歯の神経を取る必要があります」と言われたことはありませんか?
痛みがないのに、本当に神経を取らないといけないのか、本当に根管治療をしないといけないのか、歯科医院の説明に対して「本当?」と思うことがあるかもしれません。
患者様にとっては、突然の宣告にショックを受ける方もおられれば、よくわからないまま根管治療を受けて、後々後悔される方もおられます。
ここでは、痛みがないのに歯の神経を取らないといけない状況について、専門医が解説します。
※同じ状況の患者様との実際のやりとりを掲載しています。
>>神経を取らないといけないと言われたが、痛みもないので本当に必要かみてほしいとの主訴で来院された50代男性患者様
目次
神経を取らないといけない状況とは?
歯の神経は、歯の内部の血管や神経などの組織のことを指し、正しくは「歯髄(しずい)」といいます。
歯髄は、虫歯の進行や歯を強くぶつけることで、生活力を失ってしまい、死んでしまう状態になります。これを、「歯髄壊死(しずいえし)」といいます。
神経が死んでしまうと、歯の内部は壊死し、やがて根尖性歯周炎という根の先の病気につながります。そのため、死んでしまった歯髄組織(歯の神経)は、根管治療により取り除く必要があります。
痛みがないのに神経が死ぬことがあるのか?
歯の神経が死んでしまう状況で最も多いのが、虫歯が進行です。
虫歯が進むと、早期では「冷たいものでしみる」「たまにずきっと痛む」という症状が現れますが、徐々に「冷たいもので激痛」「熱いものでもずきずき痛い」「夜も眠れないぐらいドクドク痛む」という強い症状へ移行し、神経が完全に壊死する方向へ進みます。
しかし、およそ2割〜3割の歯では、上記の痛みを全く感じることなく、神経が壊死し、死んでしまうことがあります。このような状況では、患者様自身で気づくことは難しく、歯科医院へ行ったときに突然「神経が死んでいるの、神経を取る治療が必要」と宣告されるわけです。
神経が死んでいるかどうかの確認方法は?
神経が生きている状態なのか死んでいる状態なのかは、見た目で判断することはできません。
虫歯が大きいから神経を取るという判断をすることもありますが、虫歯が大きくても神経を残すことができる可能性もあります。そのために必要検査を、“歯髄検査”といいます。
歯髄検査とは、歯に対して冷たい刺激や電気の刺激を加え、その反応から神経が生きている状態なのか(=残すことができるのか)、死んでしまっている状態なのか(=神経をとらないといけないのか)を判断する検査のことを指します。
神経が死んでいると、種々の刺激に反応を示さないことが多いですが、複数の根がある奥歯や、神経の状態によっては、判断が難しい場合もあります。容易に判断可能な場合もあれば、診断の難易度が高い場合もあり、そのような場合には、根管治療に対する知識と理解が必要となります。
神経が死んだ歯を放置すると?
神経が死んでしまっている場合、放置するどうなるのでしょうか。
特に痛みがない場合、治療に躊躇するお気持ちもよくわかります。しかし、神経が死んでしまっている場合、そのほとんどは根の中に細菌感染が広がっています。そのままにしておくと、根の先に病気が広がり、歯の周りの骨を溶かす「根尖性歯周炎」という別の病気へと進行します。根尖性歯周炎を発症すると、痛みや歯茎の腫れ、膿の出現など、症状として現れる場合もあります。
治療する場合においても、神経が死んでしまった直後であれば問題は根の中に限局しており、治療の成功率も比較的高いといえます。しかし、根の先に病変ができ、根の周囲の骨の吸収が進むと、治療の成功率は初期に治療を行ったものに比べ低下する傾向にあります。
結論:神経が死んだ歯を放置すると、“さらなる問題へとつながり、痛みが出る可能性があり、治療の成功率が下がる”。よって、神経が死んでしまった場合、早期の治療が推奨される。
まとめ:神経の死んだ歯は痛みがなくても治療が必要です
- 痛みがないまま神経が死んでしまう確率は2-3割で、決して珍しくない。
- 神経が死んでいるかどうかは、正確な検査が必要。
- 神経が死んでしまっている場合は、根管治療が推奨。放置はおすすめしない。
いかがでしたでしょうか。虫歯などで神経が死んでしまう場合、痛みがないまま進行することもあります。根管治療はできれば避けたい治療ではありますが、もしも神経が死んでしまっている場合、早期に治療を受けることが推奨されます。
また、根管治療は、初めて根の中の処置を受ける場合(Initial Treatment)に比べ、過去に治療を受けた根管治療のやり直しの治療(Re-Treatment)では、成功率がおよそ20%程度低下します。すなわち、“初めに質の高い根管治療を受けること”が、歯を長持ちさせるためにも重要といえます。
監修者情報

院長 髙井 駿佑
経歴
- 2007年 県立宝塚北高等学校 卒業
- 2013年 国立鹿児島大学歯学部 卒業
- 2014年 大阪大学歯学部附属病院 総合診療部 研修修了
- 2016年 医療法人晴和会うしくぼ歯科 勤務
- 2019年 医療法人晴和会うしくぼ歯科 副院長 就任
- 2023年 髙井歯科クリニック 開院
資格
- 日本歯内療法学会 専門医
- 米国歯内療法学会 会員
- 日本外傷歯学会 認定医