背景と経過
左下の4番と5番の小臼歯の古い被せ物のやり直しを検討されていた患者様です。すでにどちらも根管治療が行われており、10年ほど前に治療を受けたとのことでした。当時はラバーダム防湿やマイクロスコープについて知らなかったため、通常の保険診療で治療を受けられていました。来院の時点で痛みや腫れの症状はなく、レントゲン画像でも根の先に膿(黒い影)はない状態でした。しかし、症状や膿がなくても、ラバーダムなしで根管治療を受けている場合、根の中に細菌感染が起こっている可能性があることをお話ししたところ、「被せ物をやりかえるにあたって、根の中の処置もきっちりやり直したい」との希望があり、根管治療を行うことになりました。
症例紹介
初診来院時の状態

デンタルエックス線写真、CTの画像を確認しても、根の先の膿と思われる黒い影は認められませんでした。
両方の歯にメタルコアが装着されており、内部で破折がないかが懸念されましたが、十分な歯質が残っていることから、破折の可能性も低いと判断しました。
精密根管治療

メタルコア除去後、根管内を精査したところ破折は認められなかったため、根管治療を行いました。
左下4番と5番、それぞれ1回ずつの治療で根管治療は完了しました。
経過観察


通常、根管治療後は治癒の確認のため6ヶ月の経過観察を行います。これは、根の先の膿や痛みの症状が改善するのに時間がかかるためです。しかし、今回のように「もともと痛みや腫れなどの症状がない」「根の先に膿がない」場合、高い確率で治癒する点から、早期(3ヶ月後)に最終補綴治療へ移行しました。
患者様のご感想
今回、昔のかぶせものをセラミックにやりかえようと思いご相談しました。その際に根の治療からやりかえるべきか悩んでいました。ご相談させていただき、根の先に黒い影がなくても、根の中には菌がたくさん残っていると知り、今回根管治療からやり直すことにしました。2本お願いしましたが、どちらも1回で、治療も全くしんどいこともなくあっという間に終わりました。
Drからのコメント
今回のように、補綴修復物(かぶせものやつめもの)のやり直しの際に、根管治療も併せて行うべきかどうか、悩むケースは少なくありません。
根の先に膿がある(レントゲンで根の先が黒く写っている)場合や、痛みや腫れがある場合は、基本的には根管治療のやり直しが推奨されます。なぜなら、そのまま被せ物を行うと、後々根の問題が大きくなる可能性があるからです。
しかし、今回のように根の先に膿がなく、症状もない場合、判断に迷うことになります。ひとつの判断基準として、前回根の治療を受けた際にラバーダムを使っていない場合、根の中には多種多様な細菌が残存している状態です。中には、カンジダや大腸菌が住み着いているとの報告もあります。そのような状態のままかぶせものだけやりかえるのか、根管治療からやりかえるのかは、患者様のご判断に委ねますが、基本的には治療をやり直しておいた方が将来的な問題が生じるリスクの軽減につながると考えています。
治療詳細
| 主訴 | ラバーダムを使って根管治療のやり直しをしたい |
| 治療内容 | 小臼歯の精密根管治療 |
| 治療期間 | 2本 それぞれ治療回数1回 |
| 費用 | 176,000円×2本 |
| リスク・副作用 | 根管治療を行った歯は、不快症状が数ヶ月継続する可能性があります。また、術直後は痛みが出る可能性があります。症状の軽減には、およそ半年から1年程度の期間が必要です。臼歯の根管治療歯は歯の破折リスクが上がるため、クラウンによる補綴治療が推奨されます。 |
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執筆・監修者情報 髙井歯科クリニック 院長 髙井 駿佑Shunsuke Takai 根管治療(歯の神経の治療)を専門とし、マイクロスコープとラバーダム防湿を用いた精密根管治療を2,000件以上担当。大阪大学歯学部附属病院での研修後、医療法人晴和会うしくぼ歯科で副院長を務め、2023年に髙井歯科クリニックを開院。日本歯内療法学会専門医として、歯科医師向けセミナーの講師や専門誌・書籍の執筆も行っています。 経歴 資格 本記事は、髙井歯科クリニック 院長・髙井 駿佑(日本歯内療法学会 専門医)が執筆・監修しています。記事の内容は診療ガイドラインや学会発表・論文等をもとに作成していますが、症状や適切な治療方針には個人差があります。気になる症状がある場合は、自己判断せず歯科医院にご相談ください。




