根管治療コラム

歯の治療を受ける際、「神経を取ったら歯がもろくなる」「折れやすくなる」と聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

確かに、歯の神経(歯髄)を取り除く根管治療は、歯の内部構造に変化をもたらす治療であり、ひと昔前までは歯科医師の間でも、「神経を取ると歯がもろくなってすぐに折れる」と言われてきました。

しかし、実際には「神経を取る=歯が弱くなる」という単純な話ではありません。
歯が折れやすくなる背景には、神経を取ることそのものよりも、歯がどの程度残っているか、そしてその後にどのような処置を行うか(補綴の精度・噛み合わせ管理・再感染防止)が大きく関わっています。

本記事では、根管治療後に歯がもろくなるといわれる理由と、そのリスクを最小限に抑えるための治療・予防法について、大阪の歯内療法専門医がわかりやすく解説します。


目次

根管治療(神経を取る)とは何か?

根管治療(神経を取る治療)とは、歯の中にある歯髄組織が感染し、それを取り除く治療のことを指します。

歯髄と歯の構造―“神経がある歯”の意味

歯の中心には「歯髄(しずい)」と呼ばれる神経と血管の束があります。歯髄は歯に栄養を届け、刺激を感じ取るセンサーの役割を果たしています。

一方で、むし歯や外傷などによって歯髄が細菌感染すると、激しい痛みや膿の形成を引き起こします。
この場合、感染した歯髄を除去し、内部を無菌化・密閉する治療が根管治療(こんかんちりょう)です。

神経が死んでしまう原因は?

  • むし歯が神経まで進行している
  • 歯が割れて細菌が侵入している
  • 過去の根管治療時に細菌が取りきれずに再発した

特に、神経が死んでしまう多くが虫歯の進行と歯のクラックが原因です。

これらのケースでは、神経を残したままでは感染が広がり、最終的に抜歯になるリスクが高まります。そのため、根管治療は「歯を守るために神経を取る治療」であるといえます。

▶️神経を取ることの必要性とそのデメリットについての詳しい解説はこちら


「神経を取ると歯がもろくなる」は本当か?

神経を取ると歯が枯れ木のようにもろくなる、と言われますが、本当でしょうか。実は、現在では研究によってその考えは否定されています。

神経を取ると歯がもろくなる、というのは誤り

神経を取った歯(失活歯)は、枯れ木のようにもろくなり折れやすくなることはありません。歯のもろさは、水分の含有量と関連していますが、研究では、歯の神経を取った歯と神経が残っている歯で、水分含有量に差はない=もろくならないということが明らかになっています。

根管治療をした歯が破折しやすいのは、残存歯質量が少なくなるから

では、根管治療をした歯は他の歯と強度は変わらないかというと、そうとはいえません。海外の大規模研究では、神経を取り除いた歯は神経が残っている歯に比べて、明らかに歯根破折が起こりやすかったと報告されています。

しかし、その原因は、「残っている歯の量や厚みが少なく(薄く)なっているから」です。
虫歯治療や根管治療の過程で歯を削る量が多いほど残存歯質が減り、物理的な強度も下がります。
したがって、歯をもろくする要因は「神経を取ること」よりも、どれだけ歯を削らずに済んだか・どんな補綴を選んだかに左右されます。

大規模研究が示す「歯が弱くなる・ならない」の実態

複数の研究では、根管治療を受けた歯の生存率は「補綴処置の有無」で大きく変わると報告されています。特に臼歯部(奥歯)では、根管治療を受けた歯をかぶせ物(クラウン)で歯を補強すれば、神経がある歯とほぼ同等の耐久性を保てることもわかっています。つまり、治療後の“補綴修復治療”こそが、歯の寿命を決めるカギであるといえます。


歯の折れやすさを左右する3つの構造的要因

① 残存歯質の量と形状

歯の強度は「どれだけ健康な歯質が残っているか」で決まります。
根管治療を受けている歯でも、適切な形成量(切削量)で歯がしっかり残っているか、大きく削られており残っている歯の量が少なくなっているかで、破折のリスクは変わります。
むし歯や再治療を繰り返すことで、歯の壁が薄くなるとわずかな力でも破折につながります。
そのため、歯質を可能な限り残すこと、そして再発を防ぐ精密な治療を受け、一度治療した歯の再治療をできるだけ防ぐことが、長期的な歯の保存に直結します。

② 被せ物・補綴の精度と密閉性

根管治療後の歯は、かぶせ物で補強するのが基本です。しかし、被せ物の精度が低かったり、内部に隙間があると、再感染が起こりやすくなります。再感染によってかぶせ物の中で虫歯になっていると、虫歯によって歯の強度が低下し、歯の破折などの大きな問題につながります。

セラミックなどの高精度補綴と適切な接着操作が、歯を守るうえで必要といえます。。

③ 噛み合わせ・過大な力・歯ぎしり

歯ぎしりや食いしばりによって、神経を取った歯には大きな力がかかります。
特に、咬合力が強い患者様の最後方臼歯(一番奥の歯)は、破折のリスクが大きいといえます。
噛み合わせを調整した負担の少ないかぶせ物の装着や、ナイトガード(マウスピース)の活用、ボトックスによる咀嚼筋の活動低下などの対応をすることで、破折リスクを減らすことができます。


根管治療が必要になった歯を守るためにできること

根管治療が必要になり、歯のことでとても不安になる方も多いのではないでしょうか。ここでは、根管治療が必要になった歯を大切に守るために必要な2つの重要な点について解説します。

1:精密根管治療+ラバーダム防湿の重要性

感染を確実に除去し、再発を防ぐためには、CT・マイクロスコープ・ラバーダム防湿を用いた精密治療が不可欠です。
細菌をできる限り減らし、根管を適切に封鎖することで、歯の内部構造を長期間安定させます。

一般的に行われている根管治療と、専門医が行う精密根管治療は、同じ治療であっても全くの別物です。特に、ラバーダム防湿を使わない根管治療は、再発のリスクが非常に高く、望ましい処置とはいえません。

▶️当院で行っている精密根管治療についてはこちら

2:精度にこだわった歯を守るための被せ物(セラミッククラウン)

被せ物は単に“見た目を整えるもの”ではなく、歯を物理的に守る「構造の一部」です。自由診療のセラミッククラウンは、精度・接着力・密閉性の点で優れており、再感染や破折の予防に有効です。

また、クラウンは歯科医師だけでなく、製作する歯科技工士の技術と経験が、治療の結果を大きく左右します。歯科医師と歯科技工士の両方が、歯を守るための共通目的を持って治療にあたることで、初めて質の高い治療を実現することができます。

また、銀歯でもよいのでしょうか?とご質問を受けますが、銀歯は虫歯の再発リスクが高く、歯の健康寿命という点からは、セラミックのクラウンが推奨されます。

▶️銀歯とセラミックのどちらの方がよい?についてはこちら


当院が選ばれる理由―専門医による歯を守るためのアプローチ

日本でも数少ない、日本歯内療法学会専門医による精密治療

大阪の髙井歯科クリニックでは、保険の範囲にとらわれず「歯を守る根管治療」を追求しています。

根管治療はどの歯科医院でも行われている治療ですが、その内容も同じかというと決してそうではありません。特に、当院院長が取得している日本歯内療法学会専門医という資格は、根管治療に関する厳しい基準を満たした、根管治療のプロフェッショナルです。
ラバーダムやマイクロスコープの使用はもちろん、個々の歯への最適な治療方法や難症例への対応など、多くの歯の問題を解決し、歯を長持ちさせる治療を提案可能です。

症例紹介:歯を残したい人への選択肢

神経を取った歯でも、適切な根管治療と補綴により、長期的に安定して機能させることが可能です。
詳しくは以下の症例ページもご参照ください。

▶️過去の根管治療の症例集はこちら


まとめ

「神経を取ると歯がもろくなる」という意見は過去の考えであり、現在では否定されています。

歯が折れやすくなる主な原因は、歯質の喪失・補綴精度・噛み合わせ管理の不備にあります。

そのため、根管治療(神経を取る治療)を受けた歯を長持ちさせるためには、適切な根管治療と適切な被せ物の設計が必要です。これらの治療を正確に行うことで、神経を取った歯でも十分に長持ちさせることが可能です。

歯の神経治療に不安がある方は、ぜひ一度、歯内療法専門医へご相談ください。


歯の神経を取ると歯が脆くなる?よくあるご質問(FAQ)

Q. 神経を取る(根管治療)をすると歯は弱くなりますか?

A. 根管治療によって歯の神経(歯髄)は除去されますが、根管治療が歯そのものを弱くするわけではありません。実際には、むし歯や過去の根管治療によって歯質が喪失している状態が多く、残存歯質量・補綴(被せ物)・咬合力の管理が歯の強度に影響を与えます。

Q. 神経を取った歯は折れやすいのでしょうか?

A. はい。神経が残っている歯に比べ、破折しやすいリスクはあります。特に、神経を取った後に適切な補綴(クラウン)がされておらず、歯質量が減っていたり噛み合わせの過大負荷がかかっている場合には、破折リスクが高まるという報告があります。そのため、根管治療を受けた歯(臼歯)においては、クラウンで覆うことが歯の破折を防ぐことにつながります。

Q. 神経を取った歯の寿命はどれくらいですか?

A. 適切な処置(精密根管治療+精度の高い補綴治療)がなされれば、神経を取った歯でも長期にわたって機能し続けるという研究があります。例えば、20年以上機能したというデータも報告されています。しかし、個々の歯によって残っている歯質量や状態、患者様の咬合力も異なるため、一概に回答が出せるわけではありません。

Q. 根管治療をせずに神経を残しておくことはできますか?

A. 状態によりますが、むし歯が深く進行していたり、歯根に感染が広がっている場合には神経を残すと抜歯リスクが格段に上がるため、根管治療を選択肢とすることが多いです。
▶️根管治療はしない方がよいのでは?とお悩みの方に、詳しい解説はこちら

Q. 神経を取った歯を補強するにはどうすれば良いですか?

A. 補強には「切削しすぎずに十分な歯質を残すこと」「負担が少なく精密なクラウンを装着することすること」が重要です。これらが整っていれば、根管治療を受けた歯でも破折するリスクを低減できます。

Q. 神経を取った歯は「感覚が無くなっている」から虫歯になりやすいのですか?

A. 歯髄(歯の神経)を除去すると、温冷痛覚など一部の感覚は消えることがありますが、それが直接「虫歯になりやすい」原因になるわけではありません。ただし、虫歯が再発しても痛みが出ないため気付かず、発見が遅れてしまう可能性はあります。重要なのは虫歯の再発を防ぐ精密な補綴治療といえます。
▶️虫歯の再発を防ぐ補綴修復治療についてはこちら

Q. 神経を取る=歯が長く持たないと考えた方がよいのでしょうか?

A. いいえ、そうとは言い切れません。むしろ、神経を取らないといけない状態を放置しておく方が、歯にとっては問題であり、適切な神経治療と被せ物治療によって、歯の健康寿命は十分伸ばすことが可能です。
しかし、一般的に根管治療の成功率は低いと言われており、特に再治療の成功率は保険診療の場合、半数以上でうまくいかないことが報告されています。

根管治療をラバーダムやマイクロスコープといった最適な環境下で、技術と経験のある歯科医師が行うことこそが、歯の寿命に直結するといえます。
▶️根管治療の成功率についてはこちら

Q. 神経を取った歯が折れた場合、どうすれば良いですか?(歯根破折)

A. 折れた範囲や歯根の状態によりますが、基本的には歯、特に歯根が折れてしまった場合、残念ながら歯の保存は難しく抜歯の適応となります。抜歯後の選択肢について、かかりつけの先生とご相談いただき、「今後どうするか」について考えた方がよいでしょう。


▶️当院で行っている精密根管治療の一例はこちら
(実際のマイクロスコープでの根管治療の動画が流れます)


監修者情報

院長 髙井 駿佑

経歴

  • 2007年 県立宝塚北高等学校 卒業
  • 2013年 国立鹿児島大学歯学部 卒業
  • 2014年 大阪大学歯学部附属病院 総合診療部 研修修了
  • 2016年 医療法人晴和会うしくぼ歯科 勤務
  • 2019年 医療法人晴和会うしくぼ歯科 副院長 就任
  • 2023年 髙井歯科クリニック 開院

資格

  • 日本歯内療法学会 専門医
  • 米国歯内療法学会 会員
  • 日本外傷歯学会 認定医
clinic

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