背景と経過
右下奥歯の鈍痛を主訴に、近くのかかりつけ歯科医院を受診しました。「根の先の膿が大きく、根管治療をしても治る可能性が低い」「口腔外科で膿を取る手術も必要」と言われ、外科を行わずに治したいと希望し当院を受診した患者様です。大きな根の先の膿を理由に外科手術の必要性を伝えられましたが、外科手術ではなく、通常の根管治療をご提案いたしました。
症例紹介
初診来院時の状態

過去に根管治療を受けており、根の先に膿がたまり骨吸収が起こっている、根尖性歯周炎を発症している状態でした。ただ、根の先の病変の大きさはそこまで大きくはなく、現在の根管治療自体も不十分である点、虫歯による感染が疑われる点から、再根管治療により治癒する可能性は十分にある状態でした。
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根管治療

まずは古い銀歯を除去し、中で隠れていた虫歯を徹底除去しました。その後、ラバーダムを装着し、根管拡大形成・根管充填を行いました。残存歯質が比較的十分残っていたため、根の先の病変さえ治癒してくれれば、長期的にしっかりと残せる可能性が高い状態でした。このまま12ヶ月の経過観察となりました。
根管洗浄 | 次亜塩素酸ナトリウム溶液・EDTA溶液 |
根管貼薬 | 水酸化カルシウム |
拡大号数 | MB・ML根#40/04 D根#50/04 |
根管充填 | バイオセラミックシーラーを用いたHydraulic condensation technique |
12ヶ月後の経過観察

根管治療後12ヶ月のCT画像にて、はっきりと骨の回復・再生が認められました。患者様の「噛むと痛い」という症状も消失し、経過良好といえます。最終的には、ジルコニアクラウンを装着し、治療は終了となります。
治療後の患者様のご感想
ずっと噛むと嫌な感じがあり、鈍い痛みはありましたが、前の歯科医院の時から「難しい治療だから多分治らない。様子を見ましょう。」と言われており、ある程度の痛みは付き合っていくしかないと思っていました。痛みが強くなってきたのでいよいよ相談にいくと、「手術しかない」と言われどうしようと思っていましたが、こちらの相談に来させていただき、治療をしてもらったおかげで本当にすっきりしました。ラバーダムを装着しての治療も耐えられるか心配でしたが、全く問題なく治療を受けることができましたし、今はずっと悩んでいた痛みも消えて、治療を受けて本当によかったです。
Drからのコメント
一般的に、大臼歯の再根管治療は難しいと言われています。なぜなら、器具が届きにくい、見えにくい、根の形が複雑、という、治療にとっては難しくなる要因があるからです。しかし、マイクロスコープを使用し、専門的な経験を積んだ歯科医師であれば、奥歯の再根管治療でも十分に治すことが可能です。ただし、どのような治療も100%治るわけではありません。今回の歯は術後12ヶ月で完全に治癒したため問題ありませんが、もしも治癒しない場合は意図的再植術の適応となります。
治療詳細
主訴 | 外科手術ではなく根管治療で歯を残したい |
治療内容 | 下顎大臼歯の精密根管治療 |
治療期間 | 2回 |
費用 | 154,000円(税込) |
リスク・副作用 | 根管治療を行った歯は、不快症状が数ヶ月継続する可能性があります。また、術直後は痛みが出る可能性があります。症状の軽減には、およそ半年から1年程度の期間が必要です。臼歯の根管治療歯は歯の破折リスクが上がるため、クラウンによる補綴治療が推奨されます。 |
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実際の精密根管治療動画はこちら:
監修者情報

院長 髙井 駿佑
経歴
- 2007年 県立宝塚北高等学校 卒業
- 2013年 国立鹿児島大学歯学部 卒業
- 2014年 大阪大学歯学部附属病院 総合診療部 研修修了
- 2016年 医療法人晴和会うしくぼ歯科 勤務
- 2019年 医療法人晴和会うしくぼ歯科 副院長 就任
- 2023年 髙井歯科クリニック 開院
資格
- 日本歯内療法学会 専門医
- 米国歯内療法学会 会員
- 日本外傷歯学会 認定医