歯を残したい 臼歯

症例紹介

治療前
治療前
治療後

背景と経過

左下臼歯の歯ぐきが大きく腫れている状態で来院されました。かかりつけの歯科医院を受診したところ、“まわりの骨が溶けているため抜くしかない”と説明され、歯を残したいとの思いから当院を受診されました。歯周ポケット(歯ぐきの溝の深さ)が10mmを超えており、周囲の骨吸収が大きい状態でした。精密根管治療を行い、痛みと腫れの症状は治療後すぐに消失、周囲の骨も回復し、歯を健康な状態に戻すことができました。

治療初回の来院時(根管治療1回目)

浸潤麻酔を行い、根管治療を開始しました。まず、古い金属の修復物や、歯の内部の材料をすべて除去しました。虫歯が深くまで広がっていたため、虫歯も完全に取り除き、ラバーダムを装着して根の内部の治療を進めました。歯の内部は血流が失われ完全に壊死していたため、感染している根管内を清掃、水酸化カルシウム製剤を貼薬して封鎖し、初日の治療を終了しました。

2回目の来院時(根管治療2回目)

患者様「これまでずっと歯茎が腫れていたが、前回の治療後数日で腫れが引いて驚いている。治療後2日は少し痛みがあったが、痛み止めを飲む必要はなかった。」
処置:浸潤麻酔後ラバーダム防湿を行い、前回の貼薬材を洗浄。バイオセラミックシーラーを使用し、シングルポイント法にて根管充填を行い、同日にデュアルキュアレジンにてコア築造し、根管治療は完了しました。
背景:歯茎の腫れは、治療が奏功すると比較的早期に消失することが多いです。しかし、骨の回復には時間がかかるため、咬ませない土台の状態でまずは3ヶ月の経過観察となりました。エンドぺリオ病変の場合、3ヶ月後の歯周ポケットが何ミリになっているかで、今後歯周病の治療が必要か否かの診断が可能となります。

根管洗浄次亜塩素酸ナトリウム溶液・EDTA溶液
根管貼薬水酸化カルシウム
拡大号数MB根 #35/04 ML根 #35/40 D根 #50/04
根管充填バイオセラミックシーラーを用いたHydraulic condensation technique

3回目の来院(治療完了から3ヶ月後)

患者様「腫れも全くなく、痛みもない。これまでずっと腫れていて困っていたが、とても快適に過ごせている。」
処置:経過観察→セラミッククラウン装着
背景:元々11mmであった歯周ポケットは3mmに回復し、骨の吸収と深い歯周ポケットは歯の根の問題に由来していたことがわかりました。レントゲン的にも顕著に骨が回復していたため、さらに3ヶ月後(術後6ヶ月)に仮歯を作成し、最終的にはセラミッククラウンで補綴を行い、治療を終了しました。

Drからのコメント

上記の患者様のように、根の先の膿(根尖性歯周炎)と歯茎の深い歯周ポケット(歯周炎)が併発しているものを、エンドぺリオ病変(市内歯周病変)といいます。2つの問題が複合している場合、適切に治すためには根管治療と歯周病治療の両方の知識が求められます。今回の歯は、根管治療のみで治癒しましたが、「根管治療をしても全く治る傾向がない場合」や、「根管治療後に一部歯周ポケットが残った場合」など、個別の状況において適切な対処が必要となります。このような歯の治療難易度は非常に高く、特に難症例の場合、歯内療法専門医である当院と、歯周病専門医の歯科医院のDrと連携し、相互に協力して1本の歯の保存を試みる場合もあります。

専門医Drによる初診時の所見の解説

左下6番(第一大臼歯)のレントゲン所見にて、遠心根管周囲の顕著の骨吸収像が認められました(黄色点線)。
骨吸収の大きさとしてはやや大きく、さらに、口腔内を見ると歯肉の発赤腫脹を認め、歯周ポケットは11mmが入る状態でした(健康な歯肉の歯周ポケットは2-3mm)。
前医にて、この骨吸収の大きさとポケットの深さから、保存が不可能と診断されたことが推測されます。

根管治療では、ファイルという細長い器具を使用し、根管内を清掃します。根尖(根の先)ギリギリまで清掃を行うために、根の長さを測定する機器を使用しますが、同時にレントゲン写真にて長さのエラーがないかのダブルチェックを行います。

根管充填(清掃した根の内部の詰め物)は、ガッタパーチャという材料を使用して行います。ここでも、長さの確認を行い、エラーが起こっていないかどうかを確認します。

根管充填直後の写真です。緊密に封鎖が得られていることを確認し、治療は完了です。

初診時
術後3ヶ月
術後6ヶ月
術後24ヶ月

レントゲンでの骨の変化を追っていくと、術後3ヶ月で骨は大きく回復し、術後6ヶ月でほぼ健康な状態へと再生しました。

治療前
治療後

初診時に大きく失われていた骨は再生し、健康な状態へと回復しました。
歯肉の腫脹は治療後早期に消失し、元々11mmの深さだった歯周ポケットは最終的には2mmにまで改善しました。
セラミッククラウンにて最終補綴を行い、治療終了となりました。

この患者様のセカンドオピニオン時のやりとりについては下記をご覧ください。

治療詳細

主訴歯ぐきが腫れて痛みと違和感がある。他院で抜歯と言われた。
治療内容左下大臼歯の精密根管治療
治療期間2回(2週間)
費用154,000円(税込)
リスク・副作用根管治療後には、痛みや腫れが起こる可能性があります。
症状の軽減には数か月の期間が必要な場合があります。
根管治療を行った歯は、歯の破折(垂直性歯根破折)のリスクが高まります。

監修者情報

院長 髙井 駿佑

経歴

  • 2007年 県立宝塚北高等学校 卒業
  • 2013年 国立鹿児島大学歯学部 卒業
  • 2014年 大阪大学歯学部附属病院 総合診療部 研修修了
  • 2016年 医療法人晴和会うしくぼ歯科 勤務
  • 2019年 医療法人晴和会うしくぼ歯科 副院長 就任
  • 2023年 髙井歯科クリニック 開院

資格

  • 日本歯内療法学会 専門医
  • 米国歯内療法学会 会員
  • 日本外傷歯学会 認定医
clinic

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