根管治療コラム

歯ぐきに「白いできもの」や「小さな膨らみ」を見つけて、驚いたり不安になったことはありませんか?
鏡で見ると小さなニキビのようにも見えるため、口内炎や歯ぐきの腫れと勘違いされる方も多くいらっしゃいます。

しかし、そのできものは 「フィステル(瘻孔)」 と呼ばれる、歯の根の中で感染が起こっているサイン である可能性があります。
フィステルは、根の先にたまった膿が外へ抜け出すために歯ぐきに“出口”を作ってしまった状態です。
痛みがないことも多く、つい放置されがちですが、原因が改善しないまま時間が経つと、骨が溶けたり、歯を失うリスクへつながることもあります。

髙井歯科クリニックでは、日本歯内療法学会専門医として、CT・マイクロスコープ・MTAセメントやバイオセラミックシーラーなどを用いた、エビデンスに基づいた再発しにくい根本治療を行っています。
本記事では、フィステルの原因や治療法、放置した場合のリスクについて、専門医の視点からわかりやすく解説します。


目次

フィステル(歯茎の白いできもの)とは

フィステルとは、日本語では瘻孔(ろうこう)といいます。これは、歯茎の奥深く、骨の中に生じた膿が、歯肉(歯ぐき)を出口として膿の通り道を作っている状態を指します。

フィステル自体が何か悪性のものであることや、増悪して全身に影響を及ぼすことはありません。

しかし、歯、あるいは歯茎に病的な問題が起こっているわかりやすいサインのひとつといえます。

フィステルの見た目の特徴

・白または黄色の小さなできもの
・押すと膿が出ることがある
・痛みは少ないが、違和感や腫れを伴うことがある
・自然と出現したり消失したりを繰り返す

フィステルに痛みがない理由

膿が外へ抜けている状態のため、内部圧が下がり痛みを感じにくくなります。
そのため、「痛くないから大丈夫」と放置してしまう方が多いのです。


フィステルの原因

フィルテルの原因として、根尖性歯周炎や垂直性歯根破折などが挙げられます。詳しく解説します。

フィステルの原因①:根尖性歯周炎

根管(歯の内部)に細菌が感染し、それが進行することで根の先に炎症が起こることをいいます。一般的には、「根の先に膿がたまっている状態」といわれる状態です。

根尖性歯周炎に由来するフィステルの場合、根の先に相当する部分の近く、すなわち歯茎の“きわ”からは少し離れた部位に起こることが多いですが、歯茎のすぐ近くに起こることもあります。

フィステルの原因②:垂直性歯根破折

歯そのものが割れてしまうことを言います。歯が割れていると、その隙間に細菌が入り込み、歯茎の中で炎症を起こし、周囲の骨を溶かしてしまいます。

炎症反応の結果、フィステルとして膿の出口が形成されます。位置は歯茎の“きわ”、歯の近くに生じることが多いですが、歯の根の先付近に生じることもあります。

フィステルの原因③:歯周病

歯周病とは、歯に付着したプラークに反応し、歯を支える骨が吸収していく病気です。歯周病が進行すると、歯茎周りに炎症が起こり、フィステルが生じることがあります。

しかし、歯周病による膿は、通常歯周ポケット(歯の周り)から溢れ出るように生じることが多く、上記の①や②とは異なる様相を示します。

また、歯そのものが大きく揺れていたり、他の歯も揺れている、歯茎が腫れている、血が出ているような場合、歯周病が原因である可能性が高いといえます。


フィステルの症状

一般的に、フィステルが生じている状態は炎症が慢性化していることが多いため、痛みなどはあまりないことが多いといえます。
気づくきっかけで最も多いのが、「自宅でふと見たら歯茎から離れたところにプツッとできもののようなものができていた」というものと、「歯科医院の定期検診を受診したら指摘されて初めて気がついた」というものです。
いずれにせよ、痛みで気づくことは少なく、見た目、あるいは少し腫れた感じで気づくことが多いといえます。


フィステルを放置するとどうなる?

フィステルを放置すると、感染が慢性化し、歯を支える骨が溶けるリスクがあります。

フィステルは、痛みがない故に放置してしまいやすい病態といえます。
しかし、歯茎の中では、なんらかの問題が起こっていることが多いため、緊急性はありませんが、比較的早めに歯科医院を受診することが推奨されます。

放置した場合、フィステルは出たり消えたりを繰り返しますが、“勝手に治るということはありません”。また、まれに強く腫れたり、噛むと痛いなどの症状に移行することもあります。

関連記事:歯茎の腫れや膿について詳しい解説はこちら 放置するリスクやデメリットについても解説>>


フィステルの治療方法

フィステルの治療方法は、その原因によって異なります。最もフィステルと関連が強く、頻度が高いのが、根尖性歯周炎(根の先の膿)によるものであり、その場合には根管治療が唯一の治療方法といえます。

根管治療には、歯の中を清掃して行う非外科的歯内療法(いわゆる一般的な根管治療・根の治療)と、根の先端部分を膿と一緒に外科的に取り除く、外科的歯内療法という方法の大きく2つにわけることができます。

>>外科的歯内療法とは?歯根端切除術・意図的再植術の違いや選択肢を解説

また、その他の原因である歯根破折が起こっている場合には、歯の保存は難しく、抜歯が第一選択となります。

歯周病が原因の場合、歯周病の治療が必要となりますが、膿が出るほど進行している歯周病は保存が難しく、抜歯が第一選択となる可能性があります。


フィステルの治療で治る確率

一般的に最も頻度が高い根尖性歯周炎(根の先の膿)に対して、治療を行った場合の成功率は以下の通りです。

精密根管治療で治療を行った場合

・初めて根の中の治療を行う場合(Initial Treatment):およそ90%
・過去に根の治療を受けている歯の再治療(Re-Treatment):およそ70%

(ただし、上記は歯が割れていない、クラックが認められないという前提です)

フィステルに対して実際に治療を行った治療動画はこちら>>
(マイクロスコープを使用した実際の治療動画が流れます)

外科的歯内療法で治療を行った場合

通常、フィステルに対しては精密根管治療が第一選択となります。
しかし、根管治療はラバーダムやマイクロスコープを使用しても100%の成功率ではありません。
そのため、根管治療を行っても治癒しない場合には、外科的歯内療法(歯根端切除術・意図的再植術)の適応となります。

外科的歯内療法は、以前の成功率は60%程度といわれていましたが、マイクロスコープを使用するマイクロサージェリーでは、成功率は90%程度と高い数値が報告されています。

▶️歯根端切除術を行った実際の治療動画はこちら
(⚠️歯茎の手術動画が流れます)

また、根管治療ではなく、初めから外科的歯内療法が第一選択となる場合もあります。

実際には、歯の状態やCTでの画像評価に加え、患者様の希望なども考慮し、どのような方法で治療を行うかを決定します。

▶️外科的歯内療法についてはこちら


フィステルの再発を防ぐために

根管治療あるいは外科的歯内療法を行い、フィステルが治癒した場合、再発を防ぐことが重要です。
特に重要となるのが、再感染を防ぐ密閉性の高い補綴修復(セラミック治療)です。

被せ物の精度が低いと、再び細菌が侵入するきっかけとなります。そこから長い年月をかけて歯の内部で最近が増加すると、最終的にはフィステル(根尖性歯周炎)が再発する可能性があります。

根管治療だけではなく、修復治療も精密に行うことが、1本の歯を長持ちさせるために重要であるといえます。

▶️補綴修復治療についてはこちら


フィステルに関するよくあるご質問(FAQ)

Q1. フィステルとは何ですか?【フィステル 意味】

A. フィステル(fistula)とは、歯の根の先に膿がたまり、それが歯ぐきに通り道を作った状態です。白いできものや膨らみとして現れます。痛みがなくても、根の中で感染が続いているサインといえます。

Q2. フィステルは自然に治りますか?【フィステル 自然治癒】

A. 一時的に膿が抜けて小さくなることはありますが、原因の感染が残っていれば再発します。自然治癒はほぼありません。根の中の細菌を除去する「根管治療」あるいは「外科的歯内療法」が必要です。

Q3. フィステルは痛くないのに放置しても大丈夫ですか?【フィステル 痛みない 放置】

A. 痛くないのは膿が外に抜けて圧が下がっているためです。感染は進行しており、放置すると骨が溶けたり抜歯が必要になったりすることがあります。そのため、痛みがなくても放置することは推奨されません。
▶️痛みがないのに神経を取る必要があるのか?についての詳しい解説はこちら

Q4. フィステルは歯周病が原因ですか?【フィステル 歯周病 見分け方】

A. フィステルの原因は「歯の根の感染(根尖性歯周炎)」が多く、歯周病由来の膿とは異なります。どちらが原因であるかは、歯周組織検査やCT、マイクロスコープでの診断が必要です。
▶️歯茎の腫れについての詳しい解説はこちら

Q5. フィステルがあるのにレントゲンでは異常がないのはなぜ?【フィステル レントゲン 写らない】

A. 感染がまだ小さい場合、二次元のレントゲンでは写らないことがあります。通常のレントゲンでは、骨の吸収が一定の大きさにならなければ、画像として検出することができません。一方でCTによる三次元的な画像検査により、骨の欠損や膿の広がりを正確に把握することができます。
▶️根管治療とCT画像についての詳しい解説はこちら

Q6. フィステルは抗生物質で治りますか?【フィステル 抗生剤 効かない】

A. 抗生剤で一時的に炎症を抑えられても、根の中の感染源は残ります。つまり、フィステルに対して抗生剤は効かないといえます。フィステルは、原因除去が伴わない限り再発します。そのため、精密根管治療、あるいは外科的歯内療法が必要となります。
▶️歯の根の膿への抗生剤についてはこちらで詳しく解説しています

Q7. フィステルが再発するのはなぜ?【フィステル 再発 原因】

A. 根の先に細菌が残っていたり、根にヒビが入っていたりすることで、根の先の病変(根尖性歯周炎)が治癒しないことに起因します。また、被せ物内部の再感染(密閉性不良)も再発の原因です。
▶️根管治療の再発についての詳しい解説はこちら

Q8. フィステルは歯根端切除術で治りますか?【フィステル 歯根端切除術 成功率】

A. 根管治療で改善しない場合、外科的に感染源を直接除去する「歯根端切除術」が有効です。顕微鏡下で行うことで、成功率は約90%に達します。

▶️歯根端切除術についての詳しい解説はこちら

Q9. フィステルと歯のヒビは関係ありますか?【フィステル 歯 ひび 割れ】

A. はい。歯にヒビ(クラック)があると、細菌が内部へ侵入し、根の先で炎症が起こることがあります。歯にヒビ(クラック)がある場合、根管治療を行っても治癒しない可能性が非常に高く、ガイドライン上でも抜歯が推奨されています。

Q10. フィステルは潰して大丈夫でしょうか?【フィステル 潰す】

A. フィステルを潰すこと自体は、特に大きな問題はありません。潰したから症状が悪化することもなければ、治ることもありません。ただし、必要以上にフィステルに触ることは、触ることによる感染の可能性もあるため、あまり推奨できません。歯科医院で根本的な治療を受けることが推奨されます。

Q11. フィステルに対して様子を見ましょうと言われました。大丈夫でしょうか?【フィステル 様子見】

A. 歯の状況にもよりますが、基本的には治療が第一選択となります。しかし、治療介入(クラウンや虫歯の除去)により抜歯となる可能性が高い場合、「抜く可能性があるなら痛みが出るまで治療せず様子をみる」と選択される患者様もおられます。フィステルを治療し、歯を長持ちさせることを第一に考える場合には、根管治療を行うことが推奨されます。

Q12. フィステルは疲れやストレスと関係ありますか?【フィステル 疲れ ストレス】

A. いいえ。フィステルは全身的な疲れやストレスとはあまり関係ありません。フィステルは根の先に生じた病変(膿)が、骨の吸収が進むにつれて歯茎に出現した膿の出口です。そのため、全身の状態はあまり関係ないといえます。ただし、痛みや腫れは、身体の免疫力が低下していると、症状として強く現れる可能性があります。

Q13. フィステルは癌と関係ありますか?【フィステル 癌】

A. いいえ。フィステルと癌は全くの別物です。フィステルを放置していると顎の骨の吸収は進行しますが、歯の根の問題であり、癌になることはありません。

Q14. フィステルがあるので意図的再植術が必要と言われましたが、歯根端切除術とは違うのでしょうか?【フィステル 意図的再植術】

A. はい。歯根端切除術とは、口腔内から歯茎を切開し、根の先の感染源を取り除く方法です。一方で意図的再植術は、歯を一度抜歯し、口腔外(抜いた状態)で根の先の感染源を除去し、元の位置に戻す方法です。
▶️意図的再植術についての詳しい解説はこちら

そのため、根の感染を除去するという目的は同じですが、そのアプローチ方法が異なるといえます。

どちらの方法が適しているかは、患者様の歯や骨の状態により異なります。いずれの方法であっても、より高度な治療となるため、専門性の高いクリニックで治療を受けることが推奨されます。


まとめ

・フィステルは痛みが出ることは少ないが、早めの治療が推奨される
・適切な根管治療を行うことで、多くは治癒が可能
・歯が割れている場合、治療は困難であり抜歯が第一選択

フィステルは、歯の根の中で起こる感染が表面化したサインです。
痛みがないからといって放置すると、再発や抜歯につながることもあります。

大阪の日本歯内療法学会専門医が治療を行う髙井歯科クリニックでは、CT・マイクロスコープ・MTA封鎖などを用いた自由診療の精密根管治療により、フィステルの再発を防ぐ構造的な治療を行っています。


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▼以下の症例では、フィステルができた歯に対する治療方法について、実施あの患者様とのやりとりをご紹介しています。

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監修者情報

院長 髙井 駿佑

経歴

  • 2007年 県立宝塚北高等学校 卒業
  • 2013年 国立鹿児島大学歯学部 卒業
  • 2014年 大阪大学歯学部附属病院 総合診療部 研修修了
  • 2016年 医療法人晴和会うしくぼ歯科 勤務
  • 2019年 医療法人晴和会うしくぼ歯科 副院長 就任
  • 2023年 髙井歯科クリニック 開院

資格

  • 日本歯内療法学会 専門医
  • 米国歯内療法学会 会員
  • 日本外傷歯学会 認定医
clinic

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