ご来院までの背景
前医にて根管治療を数回受けていたところ、ある日「歯に穴があいてしまっている」「これ以上治療しても治らないので抜くしかない」と説明を受けた患者様です。治療開始時にあった痛みは変わらず、突然抜歯と言われたことに戸惑い、ご自身で歯に穴があいている状態について調べられたとのことです。その結果、「パーフォレーションという状態であり、治すのが難しい状態であること」「MTAセメントを使用して穴を埋めること」を知り、専門医による治療を希望し当院を受診されました。

実際のやりとり
はじめまして。髙井です、よろしくお願いいたします。現在根管治療を受けているところで、歯に穴があいていると説明を受けたとのことですが、まずはお話しからお聞かせいただけますでしょうか。
はい。先月歯にやや強い鈍い痛みがあり、かかりつけの歯医者さんへ行きレントゲンを撮ったところ、「根の先に膿がたまっている」と言われ、根管治療を始めました。3〜4回治療をしましたが痛みは変わらず、ある時「歯に穴があいているから治らない」と説明を受けました。そこから色々自分で調べて、こちらに来させていただきました。
そうだったのですね。ありがとうございます。歯に穴が空いていることをパーフォレーションというのですが、パーフォレーションについてどのようにご説明を受けましたか?
正直、あまり詳しくは聞けていません。「歯に穴があいてしまっているからこれはもうダメだね」「抜いてインプラントがいいと思う」と言われただけで、詳しい状態は説明されていません。
わかりました。今仮蓋の状態なので、一度外して顕微鏡で確認させてください。

今根の中を見させていただきましたが、おそらくこの黄色い点線の部分が、本来の根の方向とは異なる部位に穴があいている状態です。レントゲン、CTでもこの部分に相当する部位の骨が大きく吸収している(溶けている)状態です。
やっぱりそうなんですね…なぜ穴があいていると骨が溶けるのでしょうか?
穴が空いている部位で、特に今回のように歯周ポケットが深い状態の場合、この穴を通じて根の中と外で細菌感染がずっと続いている状態になります。少し難しい言葉を使うと、パーフォレーションの部分が感染源になっているといえます。つまり、この穴を放っておくと、いくら根の中を綺麗にしても治らないといえます。
この穴は、MTAセメント?を使えば治るとネットで見たのですが、治るのでしょうか?
MTAセメントとは、簡単に言うと「体にとても優しい、しっかり固まるセメント」です。穴の部分にこのMTAセメントをしっかり詰めて硬化させることで、封鎖をはかるというものです。ただし、100%うまくいくわけではありません。特に、今回のように歯周ポケットと交通している場合、成功率は低下する傾向にあります。通常の根の治療のやり直し(再根管治療)の成功率はおおよそ70%程度ですが、パーフォレーションが起こっている場合、50%程度に下がると思っていただければと思います。
そうなんですか…ただ、前の先生からは抜くしかないと言われていたので、チャレンジしたいと思っています。この穴はいつ空いてしまったのでしょうか?
それはわかりません。前の先生の処置中にあいてしまったのかもしれませんし、さらに昔に治療した時のものかもしれません。「いつ穴があいたか」については、検証することは不可能ですし、あまりその点については考えすぎない方がよいと思います。
わかりました。ありがとうございます!
治療はおおよそ2回で終わります。ただし、治るかどうかは最低でも12ヶ月は経過観察が必要です。まずは6ヶ月の時点で一度見させていただければと思います。うまくいけば6ヶ月程度で改善傾向が見られることもありますが、12ヶ月経っても変わらない場合もあります。痛みについても、早期に軽減する場合もあれば半年〜1年程度落ち着くまでかかる場合もあるため、治療後は少し気長に様子を見ていただければと思います。
わかりました。なるべく気にしすぎないようにします。
それと、パーフォレーションに関しては、精密根管治療の費用に加え、22,000円だけMTAセメントを使ったリペア代として追加費用をいただいています。その点だけご了承ください。
わかりました。ありがとうございます。残せる可能性があると聞き安心しました。決してすごく高い成功率ではないかもしれませんが、なんとかうまくいくことを願っています。次回からよろしくお願いいたします。
ーーーーーーーーーーーーーー
関連記事:根管治療後に痛みがひかない原因は?
監修者情報

院長 髙井 駿佑
経歴
- 2007年 県立宝塚北高等学校 卒業
- 2013年 国立鹿児島大学歯学部 卒業
- 2014年 大阪大学歯学部附属病院 総合診療部 研修修了
- 2016年 医療法人晴和会うしくぼ歯科 勤務
- 2019年 医療法人晴和会うしくぼ歯科 副院長 就任
- 2023年 髙井歯科クリニック 開院
資格
- 日本歯内療法学会 専門医
- 米国歯内療法学会 会員
- 日本臨床歯周病学会 認定医
- 日本外傷歯学会 認定医