背景と経過
左上奥歯の痛みがあり、他院にて根管治療を受けられた患者様です。約2ヶ月ほど根管治療を続け、一度最後の処置(根管充填)まで完了したものの、痛みが続いていたとのことです。主治医に相談したところ、「それではもう一度治療をやり直しましょう」と言われ、専門医へ相談したいと考え当院を受診されました。
症例紹介
初診来院時の状態

すでに根管充填(根管治療後に根の中を封鎖するつめもの)が行われていましたが、以下の点で問題がある状態でした。
・形成されているにもかかわらず根管充填が不十分な部位が多い
・MB2(隠れた根管)がおそらく手づかずの状態
・虫歯がまだ少し残っている
以上のことから、根管内の細菌は未だ多く残存しており、精密な根管治療によってさらなる細菌の減少が期待できる状態でした。初診来院時には検査と今後の治療のご説明を行い、2回目から根管治療を開始していくことになりました。
根管治療

2回の治療で根管治療は完了しました。根管治療完了時には、元に感じていた痛みはかなり軽減し、少し響く程度になりました。このまま6〜12ヶ月の経過観察となります。
根管洗浄 | 次亜塩素酸ナトリウム溶液・EDTA溶液 |
根管貼薬 | 水酸化カルシウム |
拡大号数 | MB根#40/04 MB2根#35/04 DB根#40/04 P根#50/04 |
根管充填 | バイオセラミックシーラーを用いたHydraulic condensation technique |
症状の変化
▼治療後6ヶ月来院時
はじめの痛みはかなり軽減した。感覚としては3割ぐらいになった(7割減)。あまり硬いものは噛まないように気をつけているが、たまにものが当たると強く響く感じは残っている。普段はそこまで気にならない。
→根管治療を受けた歯の感覚は過敏な状態が続きやすく、概ね6〜12ヶ月程度かけて徐々に軽減します。しかし、残存歯質量や患者様の知覚によっては、痛みとして感じる場合もあります。今回の患者様の場合、痛みはなく響く程度だったたため、このまま術後12ヶ月まで経過観察となりました。
▼治療後12ヶ月来院時
もうほとんど気にならなくなりました。他の歯とは違う感じはありますが、普段は忘れるぐらいです。
→術後6ヶ月時点で残っていた不快症状はほとんど消失した様子でした。おそらくこれ以上の変化は見込めないと思われます。患者様も「そろそろ歯を入れたい」とのことでしたので、セラミッククラウンを作製する工程に移行しました。
※根管治療後の違和感についてはこちら:根の治療後の違和感は大丈夫?根管治療後の違和感や不快感について、専門医が詳しく解説
術後12ヶ月

元々根の先の骨吸収はありませんでしたが、術後12ヶ月のCT・レントゲン写真でも病的な所見は認められず、経過良好です。

まず、支台歯形成という歯の形をクラウン用に整える処置を行いました、
その後、仮歯(TEK)を作製し、型取り、セラミッククラウン作製となります。
セラミッククラウンをいかに精密に作るかも、根管治療を受けた歯の寿命にとって非常に重要です。
隙間がなく適合は問題ないか?噛み合わせは過度に力がかからないか?顎を側方に動かした時にクラウンが干渉しないか?など、をこまかくチェックします。
適合や咬合状態にも問題がなかったため、クラウンを装着し、治療は完了となりました。
治療後の患者様のご感想
一度根管治療を受けていたものの、治療が終わってすぐに「再度治療しましょう」となり、「大丈夫かな」と不安になり髙井歯科クリニックを調べて受診しました。これまで何度も根管治療のために通いましたが、ここではしっかりした治療をわずか2回で終わり、遠方からの通院だったためとても助かりました。治療後はひびく感じが半年ほどありましたが、徐々によくなり、はじめの痛みはほとんど消えました。転院しようかどうしようか迷っていたのですが、こちらの来てよかったです。
Drからのコメント
根管治療は、「治療がうまくいったかどうかがすぐにはわからない」点と、「対象としている細菌が目には見えない」点から、治療に対する判断が非常に難しい領域です。まずは虫歯を取り切る、ラバーダムを使うといった基本的なことはもちろんですが、再治療をすべきなのか、再治療をせずに症状が落ち着くのを待つべきかも、知識に基づいてすべて判断しなければなりません。
今回の歯は治療直後ということでしたが、初回来院時の状況から、精密な再根管治療が妥当と判断しました。無事に術後12ヶ月で症状も消え、良好な状態を維持できています。
治療詳細
主訴 | 根管治療終了後も痛みがあり、根管治療のやり直しを提案された |
治療内容 | 上顎大臼歯の精密根管治療 |
治療期間 | 2回 |
費用 | 根管治療154,000円(税込) |
リスク・副作用 | 根管治療を行った歯は、不快症状が数ヶ月継続する可能性があります。また、術直後は痛みが出る可能性があります。症状の軽減には、およそ半年から1年程度の期間が必要です。臼歯の根管治療歯は歯の破折リスクが上がるため、クラウンによる補綴治療が推奨されます。 |
この患者様のセカンドオピニオンでお越しになった際のやり取りはこちら:根管治療後すぐに治療のやり直しを勧められた50代女性患者様|根管治療後の痛みと再根管治療の必要性
監修者情報

院長 髙井 駿佑
経歴
- 2007年 県立宝塚北高等学校 卒業
- 2013年 国立鹿児島大学歯学部 卒業
- 2014年 大阪大学歯学部附属病院 総合診療部 研修修了
- 2016年 医療法人晴和会うしくぼ歯科 勤務
- 2019年 医療法人晴和会うしくぼ歯科 副院長 就任
- 2023年 髙井歯科クリニック 開院
資格
- 日本歯内療法学会 専門医
- 米国歯内療法学会 会員
- 日本外傷歯学会 認定医