背景と経過
半年前に前歯をぶつけ、かかりつけの歯科で経過観察を続けておられました。その後、神経が死んでしまい、根管治療が必要と判断され、精密な治療を希望して当院を受診されました。外傷による神経の問題は見た目ではわからないため、歯髄検査の結果のみで治療介入の判断を下すことになるため、より正確な判断が求められます。
症例紹介

初診来院時の検査

まず、神経が本当に死んでしまっているのかの検査を行いました。
具体的には、以下の3つの方法を組み合わせて神経の状態を確かめます。
・EPT(電気的歯髄診):歯に微弱な電気を流して反応をみる検査
・Cold TEST(冷刺激診):冷たいものを当てた時の反応をみる検査
・Hot TEST(温刺激診):熱いものを当てた時の反応をみる検査
上記3つの検査から、主訴である左上1番は歯髄壊死の状態であると診断できました。
※もしも検査に対して確定的な診断が得られない場合、安易に治療介入はせず、日を改めて再度検査を行います。

根管治療

根管は単根のストレートであったため、1回で治療を終えました。
治療途中にエラーが生じないように長さを測定し、最終的な詰め物のガッタパーチャポイントも試適をし、安全に治療を進めています。
最終的にはバイオセラミックシーラーを使用し、Hydraulic法という方法で充填処置を完了しました。
根管洗浄 | 次亜塩素酸ナトリウム溶液・EDTA溶液 |
根管貼薬 | 水酸化カルシウム |
拡大号数 | 50/04 |
根管充填 | バイオセラミックシーラーを用いたHydraulic condensation technique |
治療経過

治療後6ヶ月の時点では、まだ「前歯で固いものを噛むと強く響く感じがある」とのことでした。
極力触ったりしないようお伝えし、術後12ヶ月まで引き続き経過観察としました。
術後12ヶ月の時点では、「違和感があるが日常生活では気にならない」程度まで回復し、
レントゲンでも良好な経過をたどっています。
Drからのコメント
歯を強くぶつけると、神経が死んでしまい根管治療が必要となることがあります。ただし、受傷直後は検査に対して正常な反応が出ないため、判断に迷うこともあります。
今回の症例では、受傷後半年程度が経過しており、複数回の歯髄検査にも反応を示さなかったため、歯髄壊死と診断し、根管治療を行いました。
どうしても治療を終えた歯が気になってしまい、指で押したり触ったりしてしまいがちですが、触れば触るほど感覚が過敏になり、痛みや違和感が残りやすくなります。
特に前歯は過敏な感覚が残りやすいため、注意が必要です。
術後12ヶ月が経過しましたが、痛みも腫れもなく、良好な経過をたどっています。
治療詳細
主訴 | 歯をぶつけて神経を取らないといけないと言われた |
治療内容 | 上顎前歯の精密根管治療 |
治療期間 | 1回 |
費用 | 132,000円(税込) |
リスク・副作用 | 根管治療を行った歯は、不快症状が数ヶ月継続する可能性があります。また、術直後は痛みが出る可能性があります。症状の軽減には、およそ半年から1年程度の期間が必要です。臼歯の根管治療歯は歯の破折リスクが上がるため、クラウンによる補綴治療が推奨されます。 |
この患者様のセカンドオピニオン時のやりとりについては下記をご覧ください。
前歯をぶつけて神経が死んでしまい、根管治療が必要となった患者様|外傷後の歯髄壊死と根管治療の必要性
監修者情報

院長 髙井 駿佑
経歴
- 2007年 県立宝塚北高等学校 卒業
- 2013年 国立鹿児島大学歯学部 卒業
- 2014年 大阪大学歯学部附属病院 総合診療部 研修修了
- 2016年 医療法人晴和会うしくぼ歯科 勤務
- 2019年 医療法人晴和会うしくぼ歯科 副院長 就任
- 2023年 髙井歯科クリニック 開院
資格
- 日本歯内療法学会 専門医
- 米国歯内療法学会 会員
- 日本外傷歯学会 認定医