ご来院までの背景
3年前に他院で根管治療を受けた患者様です。根の先が大きく開いているため、治療に際して以下のように説明を受けたとのことでした。
・根の先が大きく破壊されており、通常の根管治療では治らない
・MTAセメントというよい材料があり、それを使えば治せる
・それ以外の選択肢は抜歯しかない
上記のようなお話を受けたのち、歯を残したいとの思いから自由診療での根管治療を受けられました。
その後数年が経過し、歯茎が再び腫れてきたことを担当医に相談したところ、「MTAセメントを使っても治らないなら抜くしかない」と説明を受け、根管治療の専門医を調べて当院を受診されました。

実際のやりとり
はじめまして。髙井と申します。よろしくお願いいたします。今回、左下奥歯のMTAセメントを使った歯が治らず抜歯と言われている、と伺っています。以前治療を受けた時には、MTAセメントを使えば治る、というお話だったということですね?
はい。前の先生から、「とても難しい治療です」「MTAセメントというよい材料を扱っているので、それを使えば治すことができます」と説明を受け、藁にもすがる思いで治療を受けました。しかし、数週間前に歯茎が腫れてきたので、急いで見てもらいに行ったところ、「黒い影ができている」「今の状態なら抜くしかない」と言われました。なんとかこの歯を治したいと思い、いろいろ調べてこちらへ来させていただきました。
そうだったのですね。ありがとうございます。今は痛みや腫れはどうでしょうか?
腫れは出たり引いたりを繰り返しています。痛みはそこまでありません。
前回治療時には、ラバーダムとうゴム状のシートは使って治療されましたか?
いいえ。当時はラバーダムというものも全く知らず、最近になっていろいろ調べて、初めてそんなものがあるのかと知りました。あの時に使っていなかったのが治っていない原因なのかもしれないと思っています。
すでにお調べいただいているのでご存じかもしれませんが、根管治療では、ラバーダムを使って治療を行うことが大前提です。もちろん、MTAセメントは非常によい材料です。今のレントゲンを拝見すると、おそらく(矢印部位の)根の先部分は大きく開いているため、MTAセメントの使用は必要でしょう。ただし、それよりもはるかに大切なことは、虫歯をしっかり取り除き、ラバーダムを使ってできるだけ細菌が入らないようにして治療を行うことです。
MTAセメントがすごいいいよ!これを使えば治るよ!という記事も最近もたくさん見ましたが、それを使えば治る、というわけではないのですね…
そうですね。もちろんMTAセメントは適応症を選んで使えば従来の材料よりも治る確率を上げてくれますが、なんでも直してくれる万能薬、魔法の薬ではありません。それよりも、ちゃんとルールを守ってしっかりと治療をする、ということが大切です。
今から再度治療しても治るのでしょうか。
確率的にものすごい高いわけではありませんが、残っているご自身の歯そのものがしっかりとしている場合、治る確率は60〜70%程度です。治療後は6〜12ヶ月程度経過を追い、治ってくれれば再度被せ物の処置を行います。一方でもしも治らない場合には、歯根端切除術という外科的な治療が追加で必要になる可能性もあります。
ありがとうございます。残せる可能性があるなら、ぜひお願いしたいと思います。
ありがとうございます。それでは、次回から治療を進めていきましょう。
こちらこそ、よろしくお願いいたします。
◯この患者様の治療経過は、下記よりご確認ください:
歯ぐきから膿が出ている(かかりつけ歯科医院からのご紹介)【70代女性】根尖破壊に対するMTAセメント_症例9
◯根管治療の再発についての詳しい記事はこちら:
根管治療の再発を防ぐために|専門医が語る原因・治療法・予防策と、再根管治療で歯を守るための選択肢とは
◯MTAセメントに関しての詳しい記事はこちら:
MTAセメントとは?根管治療における適切な使い方と意外なデメリットを専門医が解説
執筆・監修者情報 髙井歯科クリニック 院長 髙井 駿佑Shunsuke Takai 根管治療(歯の神経の治療)を専門とし、マイクロスコープとラバーダム防湿を用いた精密根管治療を2,000件以上担当。大阪大学歯学部附属病院での研修後、医療法人晴和会うしくぼ歯科で副院長を務め、2023年に髙井歯科クリニックを開院。日本歯内療法学会専門医として、歯科医師向けセミナーの講師や専門誌・書籍の執筆も行っています。 経歴 資格 本記事は、髙井歯科クリニック 院長・髙井 駿佑(日本歯内療法学会 専門医)が執筆・監修しています。記事の内容は診療ガイドラインや学会発表・論文等をもとに作成していますが、症状や適切な治療方針には個人差があります。気になる症状がある場合は、自己判断せず歯科医院にご相談ください。




