根管治療コラム
MTAセメントとは?

「MTAセメントを使えば治ると言われた」「MTAを入れたのに、まだ症状が続いている」「他院でMTAでの根管治療を勧められたが、本当にそれで大丈夫なのか」

根管治療に関わる材料の中で、近年もっとも注目を集めているもののひとつがMTAセメントです。殺菌作用・封鎖性・生体親和性の高さから、「従来の材料より優れている」「これを使えば歯を残せる」という文脈で説明を受けた患者様も少なくないかもしれません。

ただし、MTAセメントはあくまで「材料」のひとつです。どれだけ優れた材料であっても、根管内の感染をしっかり取り除く処置が先行していなければ、思うような結果にはつながりません。また、一度根管内に充填すると除去が非常に難しくなるという性質があり、再治療の選択肢を狭めてしまう可能性もあります。「MTAを入れたからこれで安心」という状況ばかりではないのが、根管治療の現実です。

髙井歯科クリニックでは、日本歯内療法学会専門医がマイクロスコープ・ラバーダム防湿・CTを用いた精密根管治療を行っています。他院でMTAセメントを使った根管治療を受けたものの症状が改善しない方や、MTAを勧められているがどういった治療なのかを正しく理解してから治療を受けたいという患者様のご相談にも対応しています。

本記事では、MTAセメントの特性と適切な使用場面、デメリット、そして「MTAを入れれば治る」という期待が必ずしも正しくない理由について、専門医の視点から解説します。

MTAセメントとは何か?その成分と特性

MTAセメントとは何か?その成分と特性

MTAセメント(エムティーエーセメント)とは、Mineral Trioxide Aggregateの頭文字を取ったもので、1990年代にアメリカのロマリンダ大学で開発されました。MTAセメントは、ケイ酸三カルシウムを主体とするバイオセラミック系材料であり、現在まで30年以上歯科治療、特に根管治療の第一線で使用されている、信頼性の高い材料といえます。

根管治療で使用するバイオセラミック材料は、その性質で粉タイプ(MTAセメント=粉と水の練和で使用)とプレミックスタイプ(ペーストorパテ状)の2つに分けることができ、他の材料にはない優れた性質(親水性・強アルカリ性・生体親和性・硬組織誘導能など)を有しています。また、材料自体が非常に高価(1〜2万円/g)であることも特徴です。

※MTAセメントとバイオセラミックマテリアルは厳密には定義は異なりますが、歯科治療においてはほぼ同義であるため、ここではすべて”MTAセメント”として解説します。

MTAセメントの主な特性

MTAセメントの主な特性

MTAセメントには、4つの優れた特徴があります。それぞれについて解説していきます。

  1. 抗菌作用
    MTAセメントは、高いアルカリ性を有する材料です。そしてセメントが硬化した材料に触れた部分は、そのアルカリ性によって抗菌作用を発揮し、細菌を減少させる作用があると報告されています。

  2. 封鎖性
    根管治療では、根の中の細菌を減らした後に、緊密に封鎖することが必要です。なぜなら、封鎖が不十分だと、残った隙間で細菌が繁殖したり、新たな細菌侵入の経路になるからです。MTAセメントは、水分と触れることでわずかに膨張するため、炎症による滲出液が出やすいような歯の内部でも、緊密に封鎖しやすいという特徴があります。

  3. 生体親和性
    多くの歯科材料は安全ではあるものの、細胞レベルで観察すると、体の組織に軽度の刺激性があるものも少なくありません。しかしMTAセメントは、バイオセラミック材料という体にほとんど有害性がない材料です。そのため、根の内部で穴があいてしまった場合や、外科的歯内療法での治療時に、歯茎の中(骨や軟組織)と触れても体への影響がなく、根の治療に適しているといえます。

  4. 硬組織誘導能
    MTAセメントは、その高いアルカリ性により、根の周囲で失われた骨の回復や、若年者の歯根未完成歯の根尖の成長発育を促す作用があります。ただし、この作用は決して「MTAセメントを使えばなんでも元に戻る」というわけではなく、限られた条件下でのみ期待できる限定的な作用であるといえます。

ガッタパーチャとの違い:根管充填材としての比較

ガッタパーチャとの違い:根管充填材としての比較

根管治療の仕上げとして、根管充填という工程があります。これは、歯の内部を詰め物で封鎖する処置であり、基本的にはガッタパーチャ(ピンク色のゴム状の材料)とシーラー(フローのよいペーストのような材料)の2つを合わせて封鎖します。ガッタパーチャは柔軟性が高く、長さや厚みのコントロールが容易で、緊密に詰めることに適した材料です。しかし、ガッタパーチャ単体では収縮することにより歯の内部に隙間が生じるため、シーラーという材料を補助として使用します。近年ではバイオセラミックシーラーというMTAセメントと近い成分のシーラーが根管充填で使用可能となり、高い治療成績が報告されています。

一方で、根管内をMTAセメントだけで封鎖する方法もありますが、第一選択ではありません。なぜなら、材料の操作が難しく、長さや深さのコントロールも困難なためです。一部の歯科医師は「MTAセメントを使えば治る」「根管充填をすべてMTAセメントで行うべき」という意見を出していますが、そのような治療が優れているという根拠はありません。適材適所で材料を使い分けることが必要であり、「なんでもMTAセメントを使えば治るわけではない」といえるでしょう。

>>精密根管治療の流れ | 大阪で根管治療(歯の神経の治療)なら「髙井歯科クリニック」

保険適用とコストについて

MTAセメントの使用は、現在保険診療で認められていません。そのため、MTAセメントを使用した根管治療はすべて保険外診療(自由診療)となります。費用はクリニックにより異なり、またすべての歯科医院が取り扱っているわけではありません。

※歯科医院によっては、根管治療は保険診療で行い、MTAセメント使用時に材料費として別途費用を徴収している場合があります。しかし、保険診療での根管治療と自由診療のMTAセメントを組み合わせることは、本来国が定めるルール上はできません(混合診療の禁止)。

>>大阪で自由診療の根管治療はいくら?保険診療との違いと詳しい治療費用を専門医が解説

MTAセメントが使われる主な場面

MTAセメントが使われる主な場面

MTAセメントには優れた特徴がありますが、決して万能な材料ではありません。MTAセメントが使用される場面としては、生活歯髄保存療法(VPT)、根管充填(主に使用されるのはバイオセラミックシーラー)、歯に穴があいてしまう穿孔(パーフォレーション)の修復、そして外科的歯内療法の治療時(逆根管充填材料)の、主に4つの場面が挙げられます。それぞれについて解説していきます。

歯髄温存療法(覆髄)への使用

歯髄温存療法(覆髄)への使用

虫歯が深く、虫歯の除去によって神経の露出が予想される場合、一般的には根管治療(歯の神経を取り除く治療)が選択されます。しかし、条件が揃っている場合、歯の神経(歯髄)を残すことができる可能性があります。これを、歯髄保存療法(VPT)といいます。

VPTでは、露出した歯髄組織の表面に封鎖材料を詰めますが(上記図右の白い材料)、この材料として最も適しているのがMTAセメントです。VPTを行う場合には、MTAセメントを使用することで従来よりも成功率(歯髄を残すことができる可能性)が高いとも言われており、VPTでの覆髄材料として第一選択であるといえます。

ただし、後述しますが、歯髄保存療法は、「神経が残せる状態であること」「虫歯が十分にアクセス可能な位置にあること」など、一定の条件を満たした場合に可能な治療法であり、すべての歯髄が残せるわけではありません。

>>生活歯髄保存療法

根管充填への使用

根管充填への使用

根管充填とは、感染し炎症を起こした歯髄を取り除いた根の中を、詰め物で封鎖する治療工程です。根管充填では、通常はガッタパーチャとシーラーという2つの材料を一緒に使って封鎖をします。このシーラーには様々な種類があり、近年ではMTAセメントと近い成分であるバイオセラミックシーラーの使用が推奨されています。また、ガッタパーチャを使用しない方法として、MTAセメントのみで根の中を詰める方法もあります。

しかし、根管充填に使用する材料の種類や成分によって治療の成功率に差が出るかというと、そうではありません。根管充填はあくまで「ラバーダム防湿下で細菌をしっかり減らした後、残った菌が増えないようにする工程」です。そのため、何の材料を使うかということよりも、「どれだけ細菌を減らすための処置が行えているか」の方がはるかに重要であるといえます。

>>根管治療後1ヶ月で再発した40代男性患者様|短期で根管治療が再発する原因と専門医による再根管治療の方法について解説

パーフォレーション修復・根尖閉鎖への使用

パーフォレーション修復・根尖閉鎖への使用

MTAセメントが役立つ場面のひとつに、パーフォレーションの修復が挙げられます。パーフォレーションとは、本来の根管とは異なる歯の内部に穴があいてしまう偶発症です。

パーフォレーションが起こると、穴があいた部位に細菌の感染が起こり、さらにあいた穴を通じて常に根管内に細菌が侵入する状態になります。そのため穴を塞がなければなりませんが、一般的な歯科材料では、パーフォレーションをうまく封鎖することができません。そして、このパーフォレーションを封鎖するのに最適な材料が、MTAセメントといわれています。

MTAセメントがパーフォレーション封鎖に適している理由として、先述のように、水分と触れて硬化するという点(多くの歯科材料は乾燥状態でないと固まらない)や、膨張して穴をしっかり封鎖できるという点、生体親和性が高い(体にとって害がない)という点が、封鎖に有利に働くことが関係しています。

>>パーフォレーション(穿孔)とは?根管治療中に「歯に穴があいた」と言われた方へ|原因・症状・治療と予後

外科的歯内療法への使用

外科的歯内療法への使用

歯の根の治療では、歯の内部から根管をきれいに清掃する根管治療(非外科的歯内療法)が第一選択です。しかし、根管治療では治らない場合や、根管治療では治癒の可能性が低い場合、外科的歯内療法が適応になります。外科的歯内療法では、歯茎を切開して感染した根の先端を切除する歯根端切除術と、歯を一度抜歯して根の先端を切除しまた元の位置に戻る意図的再植術の2つに分けることができます。

MTAセメント

外科的歯内療法の治療では、根の先を切除した後に、切除した断端を清掃し(逆根管形成)、詰め物で封鎖する工程(逆根管充填)があります。この詰め物に最も適した材料が、MTAセメントです。MTAセメントを使用した外科的歯内療法は保険適用外ですが、欧米ではMTAセメントの使用は第一選択です。日本でも、歯内療法を専門とするクリニック(自由診療)では、外科的歯内療法のほとんどはMTAセメントを用いて治療が行われています。

>>外科的歯内療法とは?歯根端切除術・意図的再植術の違いや選択肢を解説【大阪の歯内療法専門医】

根管充填にMTAが適している症例・そうでない症例

一般的に、根管治療時にMTAセメントの使用が検討されるのは、根尖が大きく破壊されている、パーフォレーションが起こっているなど、通常の材料では対応が難しい場合です。ここで、「良い材料であるMTAセメントを使えば、難しい歯も治りやすいのでは?」と思われるかもしれません。しかし、すべてMTAセメントの使用で解決するかというとそうではありません。さらに、MTAはやみくもに使えばよいものではなく、適応を誤ると状況がより複雑になることもあります。ここでは、MTAセメントの使用が適している症例と、そうでない症例を解説します。

MTAが適しているケース

ケース① 歯の内部でパーフォレーションが起こっていた歯

歯の内部でパーフォレーションが起こっていた歯

根分岐部(歯の内側)でパーフォレーションが起こっていたケースです。詳細は以下のリンクで解説していますが、パーフォレーションリペアの材料としてMTAセメントを使用して封鎖しています。しかし、根の中すべてをMTAセメントで封鎖するのではなく、穴が空いている部位のみを選択的に封鎖し(上図青矢印)、本来の根管に対しては従来通りのガッタパーチャを使用して根管充填を行っています(茶矢印)。

>>パーフォレーションへの対応とMTAセメントによる修復を希望した50代女性患者様|抜歯を宣告された歯の再根管治療

>>パーフォレーションに対してMTAセメントで封鎖を行った【50代女性】穿孔封鎖と根管治療の合併症_症例38

ケース② 根尖部が大きく破壊されている状態の歯

根尖部が大きく破壊されている状態の歯

2つ目のケースは、根尖部分が大きく破壊されている状態の歯です。このような状態を根尖破壊(Open Apex)といいます。大きく根尖が広がっている根管に対しては、通常のガッタパーチャを使った方法で緊密に封鎖することは困難なため、MTAセメントで封鎖を行います。ただしこの症例でも、MTAセメントを使用するのは根尖部1/3程度であり、上部は通常通りのガッタパーチャを使用して充填しています。

>>歯が浮いた感じがして強く噛むと痛い【70代女性】歯の違和感と根の先の膿の再発_症例17

MTAが適していないケース

MTAが適していないケース

MTAセメントは、適応症例を選んで使用すればとても有効な材料です。しかし、使用すべき適応を理解していないと、効果がないだけでなく、むしろ問題を複雑にしてしまう可能性もあります。

特に、巷でよく行われているのが、「膿が大きい」「痛みが続いている」「感染や汚染が強い」、これらを理由にしたMTAセメントの使用です。しかし、上記の状態に対して、MTAセメントを使用して治る確率が上がるかというと、そのような根拠は全くありません。

>>歯根嚢胞は必ず手術が必要?根管治療で治るケースと正しい診断の重要性

「MTAを入れれば治る」は本当か?専門医が伝えたいこと

「MTAを入れれば治る」は本当か?専門医が伝えたいこと

MTAセメントを入れれば治る、という意見を聞くことがありますが、繰り返しになりますが決してそのようなことはありません。当院を受診される患者様の中には、前医で「MTAセメントを使用しないと治らない」とはっきり説明を受けたことがあるという方もおられます。しかし、欧米、日本ともに、ガイドラインや多くの論文を見ても、「通常の治療であれば治らない歯でも、MTAセメントを使えば治る」との記載はどこにもありません。根管治療で重要なことは、「どのように根の中の細菌を減らしコントロールできるか」に集約されます。

>>MTAセメントを使わないと治らないと言われた 30代男性患者様|根の先の膿の大きさとMTAセメントの必要性

MTAは「材料」であり、治療の質を保証するものではない

MTAは「材料」であり、治療の質を保証するものではない

根管治療が成功するかどうかは、MTAセメントを使用するかどうかではありません。根管治療で最も重要なことは、根の中から細菌感染を取り除けるかどうかです。そのため、感染が残った状態でMTAセメントを使用しても、その下で炎症が継続する可能性も十分に考えられます。

「なかなか治らないから」「難しい歯だから」といってMTAセメントを使っても、それは本来の問題から目を逸らすことになりかねません。使用する材料が治すのではなく、治療の質そのものが結果を大きく左右するといえます。

>>根管治療の再発を防ぐために|専門医が語る原因・治療法・予防策と、再根管治療で歯を守るための選択肢とは

ラバーダムなしの治療にMTAを加えても結果が変わらない理由

ラバーダムなしの治療にMTAを加えても結果が変わらない理由

根管治療では、根の中の細菌をいかに減らすかが重要な治療です。そこで必要となるのが、ラバーダムの使用です。ラバーダムがない状態での治療は、きれいにしたい根の中に新たな汚染(細菌の感染)が広がる可能性があります。諸外国、特に欧米では、ラバーダムなしでの根管治療は訴訟につながるというほどその使用が徹底されていますが、残念ながら日本ではそこまで普及していないのが現状です。

MTAセメントを使っているかどうかよりも、ラバーダム防湿を行っているかどうかのほうがはるかに結果に大きな影響を与えます。現在治療を受けている、あるいはこれから受ける予定の歯科医院が、ラバーダムを使用しているかどうかは最低限確認した方が望ましいでしょう。

>>ラバーダム防湿

他院でMTAを入れたが改善しない、という場合

他院でMTAを入れたが改善しない、という場合

MTAセメントを使用後も痛みや違和感が続いており、セカンドオピニオンとして来院されることも少なくありません。その多くは、MTA充填前の治療工程、つまり感染源の除去などの根管治療そのものの内容に問題があったと推測されるパターンがほとんどです。場合によっては、虫歯が大きく残っており、ラバーダムも使用されていない状態でMTAだけが詰められていることもあります。

上記のような状態の場合、多くの歯科医院で「MTAを使って治らないなら抜歯」と宣告されます。しかし、精密な再治療や、あるいは外科的歯内療法によって、歯を残すことができる可能性は十分にあります。

>>MTAセメントを使った治療を受けたが治らない 70代女性患者様|「MTAセメントを使えば治る」は本当?

MTAを使う前に確認してほしいこと

MTAを使う前に確認してほしいこと

患者様自身が、根管治療の質を評価することは非常に難しいといえます。だからこそ確認すべきは、以下の3点です。

  1. ラバーダムを全症例で使用しているか
  2. マイクロスコープを全症例で使用しているか
  3. CTにより歯の形態を三次元的に精査できるか(できれば)

ここで重要なことは、”すべての症例で”使用しているかどうかです。この3点がクリアできている場合、根管治療においては一定の質をクリアしていると考えてよいでしょう。逆に、「最新の機器がある」「MTAを使っている」「特殊な薬がある」ということは、必ずしも治療の質を担保するわけではありません。

>>ラバーダムなしで根管治療を開始したが痛みが続いている30代女性患者様|根管治療におけるラバーダムの重要性

MTAセメントのデメリット:知っておきたい3つのリスク

MTAセメントは、材料の特性からメリットが多い治療方法であることは間違いありません。しかし、MTAセメントにもデメリットがあります。ここでは、MTAセメントを使用する時に起こるデメリットを紹介します。

一度入れると除去が非常に難しい

一度入れると除去が非常に難しい

MTAセメントは一度硬化すると非常に硬く、根管内から除去することが難しくなります。直線的な根管で、かつ充填が一部に限局している場合には除去可能ですが、根管すべてをMTAで充填していたり、湾曲している根管内に充填している場合、取り除くのはほぼ不可能といえます。

そのような場合には、上の症例のように、外科的歯内療法(歯根端切除術・意図的再植術)によって対応することが可能です。ただし、基本的には治療の第一選択は非外科的根管治療です。MTAセメントは治癒の可能性を広げてくれる一方で、再治療の時の選択肢を狭めてしまう可能性があるといえるでしょう。

>>歯根端切除術とは?根の先の膿や嚢胞を取り除き、歯を残す外科的根管治療|【大阪の歯内療法専門医】

操作が難しく、術者の技術に結果が左右される

操作が難しく、術者の技術に結果が左右される

MTAセメントは、粉と液を練和するタイプと、パテ状のものを詰めるタイプと2つのタイプがあります。どちらであっても、操作がやや難しく、さらに「歯の内部」という細部での処置になるため、適切な使用には専用の器具と習熟が必要です。操作が不完全な場合、治らないだけではなく、より問題が複雑化するリスクもあります。「MTAの使用=確実性が高い」というわけではなく、使用する術者が適応を理解しているか、そして適切に扱う技術が伴っているかが、結果を大きく左右するといえます。

変色のリスクがある

変色のリスクがある

MTAセメントは、元々はグレー色をした粉末の材料で、水と練和して根管内に充填します。しかし、従来のグレータイプのMTAは歯の変色を引き起こすことが報告されており、特に前歯部などの審美領域での使用は注意が必要でした。

その後多くの改良が加えられ、ホワイト色の材料が登場し、変色の心配はほとんどなくなりました。現在一般的に使用されているMTAセメントのほとんどはホワイトタイプのものであり、MTAセメントの使用による変色の問題はありません。

しかし、もしも心配な場合には、一度かかりつけの歯科医院へ確認、相談されるのがよいでしょう。

「3Mix-MP法」「ドッグスベストセメント」についての当院の考え方

MTAセメントとは別の材料になりますが、一昔前の日本では、3Mix(スリーミックス)という材料が広く使用されていました。3Mixとは、3つの異なる抗生剤を混ぜ合わせた軟膏のような材料です。この3Mixを根管内に入れることで、その抗菌性によって根の中の細菌を減らして根の問題を治す、あるいは虫歯を削らずに殺菌して治すという目的で使用されてきました。

また、ドッグスベストセメントという材料も、「虫歯を一切削らず殺菌する」という名目で一部の歯科医師に強く支持されてきました。

しかし、いずれの材料もその有効性に強いエビデンスはなく、現在では世界的に文献を見ることも治療の選択肢に挙がることもありません。

日本においては未だに使用されているという話も聞きますが、世界標準からはかけ離れた治療であるといえるでしょう。

材料ひとつをとってもその時々の”流行”があり、知識のアップデートの必要性と、エビデンスや臨床実績に基づいた治療選択が重要です。

(髙井歯科クリニックでは、上記の理由から3Mixやドッグスベストセメントは取り扱っておりません。)

歯髄温存と抜髄、どちらを選ぶか

歯髄温存と抜髄、どちらを選ぶか

虫歯が大きく広がっている場合、歯の神経を残す歯髄保存療法(VPT)と根管治療(抜髄)の二つの選択肢があります。もしも歯髄保存療法の適応となった場合、MTAセメントを使った治療が推奨されます。しかし、これはどちらか一方を選ぶというよりも、歯の状態によって「どちらが適しているか」を判断する必要があり、そこには専門的な知識が必要です。

歯の神経(歯髄)は残せるのであれば残した方がよいですが、無理な状態で歯髄保存を行った場合、強い痛みや腫れによって最終的に根管治療が必要になる可能性や、歯髄の狭窄(石灰化)が起こり根管治療が必要になった場合に治療が不可能になる可能性があります。つまり、安易にMTAセメントを使用して歯髄を残そうとすることが常に正解ではないといえます。

>>根管治療はしないほうがいい?|後悔しないために知っておきたいポイントと当院の方針

神経の状態によっては、抜髄の方が長期予後が安定するケースもある

神経の状態によっては、抜髄の方が長期予後が安定するケースもある

神経を残すこと=よい治療、と考えられがちですが、すでに不可逆性歯髄炎の状態になっている歯髄を残すことはできません。仮にMTAセメントを使用して歯髄保存にチャレンジした場合でも、やがて神経は死んでしまい、根の先の膿(根尖性歯周炎)へ移行します。

一般歯科医院では「神経を残せます」あるいは「神経を残すためにMTAセメントを使って歯髄保存療法を行った」というケースでも、専門医の診断のもとでは、歯髄保存の適応ではなく、根管治療(抜髄)の方が歯の予後にとって望ましいということも少なくありません。その理由は、歯髄の診断の難しさにあり、正確な診断のもとで治療方針を決定しなければ、かえって歯の状態を悪化させる可能性もあるからです。

神経を残したい、というお気持ちは患者様にとっては当然です。そのため私たち歯科医師は、第一に歯髄の保存を、それが適していない場合は精密な根管治療で歯を長持ちさせることを考えて、患者様に治療のご提案をする必要があります。

>>「歯の神経が死んでいる」と言われた方へ|神経の確認方法とセカンドオピニオンについて

歯髄保存療法が成立するための条件

歯髄保存療法が成立するための条件

歯髄保存療法を行うには、まず歯髄が残せる状態なのかどうかを見極めなければなりません。つまり、歯髄の検査を正確に行うことが第一歩となります。歯髄の状態は機械ひとつで簡単にわかるわけではなく、電気的歯髄診、Cold Test、打診や圧痛、CBCTでの三次元的画像診断など、多くの検査結果から診断をくだします。

また、ラバーダムやマイクロスコープ、MTAセメントを使いこなすことができるかどうかも、歯髄保存療法が成立するための条件であるといえます。

MTA使用後も治らない場合の選択肢

MTA使用後も治らない場合の選択肢

MTAセメントは、一般的には「根管治療の最後の手段」として使用され、MTAを使って治らないなら抜歯しかないと宣告されることも少なくありません。しかし、MTAセメントを使って治らない場合でも、再根管治療や、さらには外科的歯内療法というアドバンスなアプローチによって、根の問題を解決し、歯を残すことができる可能性は十分にあります。

「MTAセメントを使ったらもうそれ以上何もできない」と諦めて抜歯する前に、一度専門医に相談することで、選択肢が開かれるかもしれません。

>>根管治療をした歯が治らない時はどうする?根管治療を受けた歯が治らない原因とその後の治療の選択肢を解説

まとめ:MTAセメントは「適切に使われてこそ」の材料

ここまででお話したように、MTAセメントは決して魔法の薬ではありません。使いどころを誤れば効果がないだけでなく、かえって問題が複雑になることも少なくありません。

MTAセメントは優れた特性をもつ材料であるからこそ、使用の状況、術者の技術、治療の前提条件が整って初めてその効果を発揮します。

「材料が病気を治すのではなく、根の中から細菌を減らす処置が問題を解決する」という原則に従って、根管治療を受けることが推奨されます。

  • MTAセメントの使用を勧められたが本当に治るか不安
  • MTAセメントを使ったが痛みが続いている
  • MTAセメントで治療をした歯が再発した

大阪の根管治療専門医(日本歯内療法学会専門医)である髙井歯科クリニックには、このような悩みを抱え、遠方からも多くの患者様が来院されます。

以下のリンクでは、これまでに来院された患者様と専門医によるセカンドオピニオンの様子をまとめています。

受診しようかどうか迷われている患者様は、ぜひご参考にしてください。

>>セカンドオピニオン事例

>>症例紹介

根管治療の強み

また、専門医として根管治療における様々な難症例にも対応しています。過去の治療症例の一部を掲載していますので、「どんな治療なのかが気になる」「今の自分と近い状態の歯の治療結果が知りたい」という方も、一度ご覧いただければ幸いです。

>>根管治療の“専門”って何が違う?”専門医”による治療を大阪で選ぶ理由

>>大阪で根管治療(歯の神経の治療)なら「髙井歯科クリニック」

監修者情報

院長 髙井 駿佑

院長

髙井 駿佑Shunsuke Takai

経歴

  • 2007年県立宝塚北高等学校 卒業
  • 2013年国立鹿児島大学歯学部 卒業
  • 2014年大阪大学歯学部附属病院 総合診療部 研修修了
  • 2016年医療法人晴和会うしくぼ歯科 勤務
  • 2019年医療法人晴和会うしくぼ歯科 副院長 就任
  • 2023年髙井歯科クリニック 開院

資格

  • 日本歯内療法学会 専門医
  • 米国歯内療法学会 会員
  • 日本外傷歯学会 認定医

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