背景と経過
左上奥歯が噛むと痛いとのことでかかりつけ歯科医院からご紹介いただいた患者様です。当初は根管治療のご依頼をいただきましたが、歯の状態を精査したところ、すでに根管内部が大きく削られており、歯の破折(ヒビ・クラック)が疑われる状態でした。治療前の時点では明らかな破折はなかったものの、根管治療時のマイクロスコープを使っても、根尖部のクラックは視認できないとお話しました。また、根管治療による成功率も決して高くない状態でした。このような場合、意図的再植術によって、歯を全周抜歯した状態で破折の有無を精査することが有効であるとお話したところ、患者様の希望があり、意図的再植術を行うことになりました。結果としてはクラックはなく、術後12ヶ月が経過し根の先の膿は消失し、治癒が確認できました。
症例紹介
初診来院時の状態

根管の内部は、過去の治療時に大きく削られており、残存歯質が薄くなっていることが予測されました。また、根の先の炎症は上顎洞にも波及しており根管治療が必要ではありましたが、根管治療を行うとさらに根管内部の切削が必要なことから、歯を抜いて感染している根の先を切除し、そして元に戻す、意図的再植術を実施しました。
意図的再植術

意図的再植術のためにまずは抜歯を行いますが、抜歯時に歯が破折するリスクもお伝えしました。丁寧にゆっくりと抜歯し歯の全周を精査したところ、破折は認められず、処置を進めました。根の先端部分を切除した後、逆方向から根管内を清掃し、MTAセメントを充填して抜いた元の位置に戻し、治療は終了となりました。
実際の口腔外操作時間(歯を抜いてから元に戻すまで)はおおよそ15分程度でした。
経過観察

意図的再植術の直後(左から2番目)は、切除した部分が骨の空洞になるためレントゲンで黒く写ります。しかし、その後6ヶ月、12ヶ月と経過するに従い、根の先の骨が回復しています。患者様の症状もなくなり、良好な経過をたどっています。
また、術後6ヶ月では根の先の骨は未成熟でしたが、12ヶ月後には完全に正常な骨へと再生しています。
患者様のご感想
かなり歯が薄くなっており割れている可能性も高いと言われ、半ば諦めかけていた歯でしたが、意図的再植術によって残すことができて本当によかったです。将来的に破折が起こるリスクがある状態であることは理解しているので、いつまで持ってくれるかはわかりませんが、できるだけ長持ちしてくれるといいなと思っています。
Drからのコメント
初診時の状態では、かなり歯質が薄く、破折が疑われる状態でした。しかし、口腔内を精査したところ、把握できる範囲では破折はなく、意図的再植術を行うことになりました。意図的再植術で確認したところ、明らかな破折などの問題はなかったことから処置を継続し、結果として術後12ヶ月で完全な骨の回復が認められました。
ただし、過去に削った歯の内部は元に戻ることはありません。そのため、将来「いつ歯根破折が起こるのか」については予測できず、リスクがある状態ではあります。
無事に治癒してくれましたが、今後はご紹介いただいたかかりつけ歯科医院にて精密な被せ物を装着してもらい、噛み合わせの接触も少し弱めにし、負担を軽減して補綴治療を行うことを助言させていただき、当院でのフォローアップは終了となりました。
治療詳細
| 主訴 | 残っている歯が薄いと言われた歯を残したい |
| 治療内容 | 上顎大臼歯の意図的再植術 |
| 治療期間 | 1回 |
| 費用 | 187,000円(税込) |
| リスク・副作用 | 外科的歯内療法は、術後の痛みや腫れ、歯肉の退縮などの副作用があります。また、治療は100%成功することを保証できるものではありません。抜歯後に確認し、歯にヒビが入っている場合は治療の継続は困難であり、抜歯の適応となります。 |
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執筆・監修者情報 髙井歯科クリニック 院長 髙井 駿佑Shunsuke Takai 根管治療(歯の神経の治療)を専門とし、マイクロスコープとラバーダム防湿を用いた精密根管治療を2,000件以上担当。大阪大学歯学部附属病院での研修後、医療法人晴和会うしくぼ歯科で副院長を務め、2023年に髙井歯科クリニックを開院。日本歯内療法学会専門医として、歯科医師向けセミナーの講師や専門誌・書籍の執筆も行っています。 経歴 資格 本記事は、髙井歯科クリニック 院長・髙井 駿佑(日本歯内療法学会 専門医)が執筆・監修しています。記事の内容は診療ガイドラインや学会発表・論文等をもとに作成していますが、症状や適切な治療方針には個人差があります。気になる症状がある場合は、自己判断せず歯科医院にご相談ください。




