背景と経過
歯茎が腫れていることに数か月前から気づいていたが、痛みがないため放置していた。しかし、腫れが長引いているためかかりつけの歯科を受診したところ、「根の先で膿が広がっていて骨が大きく溶けている」「MTAセメントを使わないと治らない(使っても治るかどうかは五分五分)」と説明を受けた患者様です。MTAセメントは優れた材料ではありますが、「使えば治る」というわけではありません。本症例では“MTAセメントの適応ではない”と判断し、通法どおりの根管治療を行いました。
この患者様のセカンドオピニオンの詳細はこちら:
MTAセメントを使わないと治らないと言われた 30代男性患者様|根の先の膿の大きさとMTAセメントの必要性
症例紹介
初診来院時の状態

右上の歯茎に腫れ(フィステル)が認められる状態で来院されました。
通常のレントゲン写真(左図)では判断しにくいですが、CT(中図2枚)では明瞭な骨の吸収が確認できました。
▶フィステル(歯茎の白いできもの)とは?症状・原因・治療法を日本歯内療法学会専門医が詳しく解説
治療方法の選択
本症例では、根の中がまだ触られていないInitial Treatment(抜髄・初回治療)の状態でした。
歯の神経の検査では完全に神経は死んでいる状態であり、かつ根の先の膿があるこの状態での根管治療の成功率はおよそ85%です。ただし、この成功率とは「ラバーダムを使って細菌が入らないように配慮した治療環境」での成功率であることに注意が必要です。
MTAセメントの使用については、以下のような理由から使用“せずに”治療を行うことにしました。
- MTAセメントを使う必要性がない(適応症ではない)
- 使えば治る確率が上がることもない
- 必要ない歯にMTAを使うことで、かえって問題が悪化する可能性もある
精密根管治療
古いメタルインレーを除去したところ、内部では大きく虫歯が広がっていました。虫歯を除去し、ラバーダム防湿下でマイクロスコープを使用して根管治療を行いました。
治療は1回で完了し、経過観察となりました。
| 根管洗浄 | 次亜塩素酸ナトリウム溶液・EDTA溶液 |
|---|---|
| 根管貼薬 | なし |
| 拡大号数 | B根#35/04 P根#35/04 |
| 根管充填 | バイオセラミックシーラーを用いた Hydraulic condensation technique |
経過観察

根管治療から12ヶ月が経過し、CTにてはっきりと根の先の骨の回復が認められました。
歯茎の腫れも術後すぐになくなったとのことで、良好な状態といえます。
患者様のご感想
MTAを使えば治ると言われましたが、そんなにも難しい状態なのであれば、専門医の先生にお願いしたいと思ってこちらに来ました。結果、その材料(MTAセメント)は使わずに治療をしてもらい、写真で見てもしっかりと治っていて安心しました。
Drからのコメント
MTAセメントはなんでも使えばよいというわけではありません。パーフォレーションや外科的歯内療法においては使用することが多いですが、「膿が大きいから」「普通の治療だと治らないかもしれないから」という理由は、MTAの使用には適しているとはいえません。それよりも重要なことがたくさんあり、どの材料を使うかよりも、「どのような環境で、誰から治療を受けるか」が予後に大きく影響するといえます。
本症例の成功率は85%であり、うまく治癒してくれました。もしも治っていない場合には、おそらく外科的歯内療法(歯根端切除術)が必要となり、その際にはMTAセメントを使って外科治療を行うことになるでしょう。
治療詳細
| 主訴 | MTAセメントを使わないと治らないと言われた |
|---|---|
| 治療内容 | 上顎小臼歯の精密根管治療 |
| 治療期間 | 1回 |
| 費用 | 根管176,000円(税込) |
| リスク・副作用 | 根管治療を行った歯は、不快症状が数ヶ月継続する可能性があります。また、術直後は痛みが出る可能性があります。症状の軽減には、およそ半年から1年程度の期間が必要です。臼歯の根管治療歯は歯の破折リスクが上がるため、クラウンによる補綴治療が推奨されます。 |
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監修者情報 院長 髙井 駿佑Shunsuke Takai 経歴 資格





