背景と経過
奥歯で噛むと痛みがあり、近くの歯科医院を受診したところ、根の中が石灰化していて器具が到達しないと予想されるため、治療が難しいと言われた患者様です。ご自身で根管治療の専門医を探し、当院を受診されました。来院時、左下の第二大臼歯にはクラウンが装着されており、咬合痛(噛むと痛いという症状)がある状態でした。
症例紹介
初診来院時の状態

左下7番は、CTにて明らかな根の先の膿(黄色点線丸:黒い影)が認められる状態でした。このことからも、根管治療が必要であることが確定しました。しかし、前医の先生の指摘通り、根管の道筋が見えず、根の先まで処置ができない可能性がある状態でした。
青矢印:手前の歯の根管の道筋=明確に確認可能
黄矢印:該当歯の根管の道筋=あまりはっきりしない
| 根管洗浄 | 次亜塩素酸ナトリウム溶液・EDTA溶液 |
|---|---|
| 根管貼薬 | なし |
| 拡大号数 | M根#40/04 D根#40/04 |
| 根管充填 | バイオセラミックシーラーを用いたHydraulic condensation technique |
患者様へのご説明内容
「根管治療は、根の中の細菌を減らすための治療です。そのため、根管が狭窄していて根の先まで触ることができないと、それによって治らないのでは?と思われるかもしれませんが、そのようなことはありません。石灰化によって器具が届かない場合の対処法は、“器具が届く位置まで”しっかりと清掃することです。この方法で、根の問題は十分に治癒する可能性があります。もしも根の中に器具が入らないほど狭い状態で無理に削ったりすると、歯にダメージが加わり新たな問題を起こす可能性もあります。
また、器具が根の先まで届き、根の先まで薬が入っても入らなくても、根管治療の再治療で治癒する確率はおおよそ70〜75%程度です。もしも治らない場合には外科的歯内療法(今回の場合では意図的再植術)を行い治療することになるため、石灰化が起こっていてもいなくても、大きく何かが変わるということはありません。また、石灰化しているから根管治療ができないということもありませんので、その点はご安心いただければと思います。」
精密根管治療

通法通り、ラバーダムとマイクロスコープを使用し、精密根管治療を行いました。
術前の予測通り、手前(写真左側)の根管は根の先端まで到達しませんでしたが、器具が届く位置まで清掃を行い、治療は完了しました。

青矢印の方の根管では根の先まで器具が到達していますが、黄矢印の方の根管は根の先端から手前まででストップしています。
経過観察

治療前と術後1年のCT画像の比較です。元々見られた根の先の黒い影は完全に消失し、骨の回復・再生が認められます。患者様の痛みの症状もなくなり、良好な経過を辿っています。このまま最終的な被せ物へ移行し、治療は終了となりました。
患者様のご感想
前の先生からの説明では、根の先まで器具が届かないと治らないよと聞き、抜くしかないと思っていました。しかし、そうではないということを教えていただき、また結果として膿も治って快適に過ごせています。抜歯する前に相談にきてよかったです!ありがとうございました。
Drからのコメント
「根の先まで器具が届かない」「薬がしっかり入っていない」という理由で、治らないという意見や抜歯しかないという意見があります。しかし、狭窄や石灰化が原因で根の先まで器具操作が行えない場合、治療の成功率が大きく低下するということはありません。今回の症例のように、器具が届くところまでをしっかりと清掃することで、治癒する可能性は十分にあります。
狭窄・石灰化している根管をうまくマネジメントするテクニックもありますが、それらを駆使しても根の先までの清掃が難しい場合でも、問題ないことを示してくれた歯でした。
もしも治癒しない場合には意図的再植術の適応となりますが、歯への負担は増えるため、無事に治癒してくれてよかったです。
治療詳細
| 主訴 | 石灰化していて根の先まで器具が届かないと言われた |
| 治療内容 | 下顎大臼歯の精密根管治療 |
| 治療期間 | 1回 |
| 費用 | 187,000円(税込) |
| リスク・副作用 | 根管治療を行った歯は、不快症状が数ヶ月継続する可能性があります。また、術直後は痛みが出る可能性があります。症状の軽減には、およそ半年から1年程度の期間が必要です。臼歯の根管治療歯は歯の破折リスクが上がるため、クラウンによる補綴治療が推奨されます。 |
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執筆・監修者情報 髙井歯科クリニック 院長 髙井 駿佑Shunsuke Takai 根管治療(歯の神経の治療)を専門とし、マイクロスコープとラバーダム防湿を用いた精密根管治療を2,000件以上担当。大阪大学歯学部附属病院での研修後、医療法人晴和会うしくぼ歯科で副院長を務め、2023年に髙井歯科クリニックを開院。日本歯内療法学会専門医として、歯科医師向けセミナーの講師や専門誌・書籍の執筆も行っています。 経歴 資格 本記事は、髙井歯科クリニック 院長・髙井 駿佑(日本歯内療法学会 専門医)が執筆・監修しています。記事の内容は診療ガイドラインや学会発表・論文等をもとに作成していますが、症状や適切な治療方針には個人差があります。気になる症状がある場合は、自己判断せず歯科医院にご相談ください。



