目次
背景と経過
上の奥歯が食事中に鈍い痛みがあり、当院を受診された患者様です。右上6番(青矢印)と7番(黄矢印)の両方に根尖病変があり、治療が必要な状態でした。右上6番は初診来院時にすでに歯根破折が認められたため抜歯適応となり、右上7番の治療をどうするかご相談しました。成功率やクラックの有無を早期に確認できることなどから、再根管治療ではなく意図的再植術を選択しました。
この患者様のセカンドオピニオンこのやり取りはこちらをご覧ください:
▶意図的再植術か再根管治療かの選択に悩んだ 40代女性患者様|外科的歯内療法の選択基準
症例紹介
初診来院時の状態

右上6番(青矢印)は、すでに歯根破折が起こっている状態でした。右上7番(黄矢印)と比較すると、すでに根管内を大きく切削されており、残存歯質量が非常に少ないことが、破折を起こした原因である可能性が高いといえます。
右上7番にも根尖部にわずかですが透過像(黒い影)が認められ、治療方法についてご相談しました。
▶フィステル(歯茎の白いできもの)とは?症状・原因・治療法を日本歯内療法学会専門医が詳しく解説
根管治療か外科的歯内療法かの選択
通常、根尖病変に対しては非外科的な(通常)の根管治療が第一選択となります。
しかし、状況によっては、再根管治療ではなく外科的歯内療法が治療方法として選ばれる場合もあります。
以下の点が、その判断に必要な情報です。
- 再根管治療の成功率は根の先に病変がある場合およそ70%程度
- 6〜12ヶ月が経過し治癒していなければ外科へ移行
- 根管内からもクラックの有無は確認するが、歯の深部のクラックは確認できない
- 根管治療で治癒がベストだが、外科へ移行し、外科時に破折が確認されることもある
- 意図的再植術の成功率(生存率)はおおよそ85%
- 歯を抜くため、抜いた状態で全周を確認し、クラックがないかどうかがはっきりわかる
- 一度歯を抜くため侵襲はあり、抜歯時にクラックが起こる可能性もある
今回の場合、手前の歯がすでに破折している点から、患者様は「破折が起こっているのかどうかはっきりさせて治療を受けたい」ということと、「せっかく治療するなら成功率が高い方を選びたい」とのことで、意図的再植術を行うことに決定しました。
実際の治療

- 歯に負担がかからないように丁寧に抜歯し、メチレンブルー(青い色素)で染色し、クラックが起こっていないことを確認しました。この時点で明らかなクラックが認められる場合には、残念ながら保存は難しく抜歯の適応となります。
- 細菌感染が集中していると考えられる根尖約3mmを切除しました。
- 切除した断面を観察しました。画像上側のピンク色の丸い部分は、根管充填材料が詰められています。一方で下側の丸い部分は青く染まっており、感染が強く疑われます。さらに、2つの穴(根管)をつなぐ薄い線の部分はイスムスといい、細菌が生息するスペースとなってしまいます。
- 切除した断面は、そのままでは細菌がまた繁殖できる環境が残っている状態です。そのため、逆方向からさらに3mm程度根管側を形成する、逆根管形成という工程が必要です。2つの根管とそれを繋ぐイスムスを処理しています。
- 逆根管形成を行った部分に、MTAセメントを充填しました。
- 余剰なMTAセメントを洗い流し、この状態で抜歯窩に戻して治療は終了です。
抜歯を行ってからもとに戻す①〜⑥まで、所要時間はおよそ10~15分程度です。
意図的再植後の注意事項
- 治療後数週間はかなり歯が揺れているが、生着すれば必ずまたしっかりと安定してくる
- 特に初めの1〜2週間は、極力治療部位で噛まないように
- もとに戻した時に反対の下の歯とは噛まないことを確認しているが、重力で落ちてきて当たってくることがある
- もしも噛んであたるようになった場合は噛み合わせの調整が必要
- 術後2週間程度で一度経過を見させていただき、その後は6ヶ月の経過観察
- おおよそ3〜4週間でしっかり安定してくることが多い
経過観察

術後6ヶ月時点で、治療直後にあった根の先の骨の吸収は完全に回復し、骨の再生が認められます。
歯もしっかりと安定しており、経過良好と判断しました。
患者様のご感想
奥から2番目(右上6番)が割れてしまい抜歯しかないと聞いた時はショックでした。ただ、一番奥の歯(右上7番)はなんとしても残したいと考え、外科的な方法を選択しました。歯を抜いて戻す治療があると初めて知りましたが、治療を選択してよかったです。治療直後はかなりグラグラしていましたが、数週間で揺れもなくなり、半年が経過して痛みも揺れも全くありません。今後は硬いものをなるべく噛まないように気をつけながら、しっかりと歯磨きをしてケアして残したいと思っています。
Drからのコメント
意図的再植術は、歯内療法(歯の根の治療)を専門とする歯科医院では選択される治療方法ですが、一般的な歯科医院ではなかなか提案されることも少ない治療です。
「一度歯を抜いて本当に戻るのか?」と思われるかもしれませんが、治療の成功率は比較的高く、また、根の問題で最も懸念される「歯の破折やクラック」の有無を歯の全周くまなく精査できるというメリットもあります。
今回のように、再根管治療を行うか、外科的歯内療法を行うかも、一概に「どちらがよい」とはいえません。同じ状況の歯は存在せず、1歯1歯その状態にあったベストな方法やメリット、リスクなどを提案してもらえるかどうかが、歯内療法を専門としたクリニックを受診する利点であるといえます。
治療詳細
| 主訴 | 意図的再植術で治療をしたい |
|---|---|
| 治療内容 | 上顎大臼歯の意図的再植術 |
| 治療期間 | 1回 |
| 費用 | 意図的再植 187,000円(税込) |
| リスク・副作用 | 外科的歯内療法は、術後の痛みや腫れ、歯肉の退縮などの副作用があります。また、治療は100%成功することを保証できるものではありません。抜歯後に確認し、歯にヒビが入っている場合は治療の継続は困難であり、抜歯の適応となります。 |
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監修者情報 院長 髙井 駿佑Shunsuke Takai 経歴 資格





